35<お願いだから> ページ36
〜とある家の長男が語る〜
9月10日-16:04-
トド松はいつにもなく真剣な顔をしていた。あざとく着飾ったものではない、真っ直ぐな目が俺に刺さった。そこから、ただならない、ということだけは理解できた。
ついてきて、と、その言葉通りについていった。
何処に行くんだ、と問う気力すら抜けていた。
ついた所は、いつも通る、川のそばの道。
ただ違うのは_
「…A。」
「こんにちは、おそ松さん。お久しぶりですね。」
そこには、静かに微笑んだAの姿があった。
それを見た瞬間、途端に心臓がどくんと飛び跳ね、痛いほどに高鳴り、血液が流れ出して、無色で無気力だった世界に、ぶわっと色がついた。
またこれだ、時間が有り得ないほどに濃度を増して、俺を呑み込もうとする。
「_ああ、久しぶり。」
Aは何処か悲しそうな顔をしながら、元気でしたか、と聞いてきた。
「まあまあね。」
嘘だ、絶望的なほどに無気力だった癖に。
「…けじめ、つけてきて。兄さん達には、ボクから適当になんか言っとくから。」
トド松はそう言うと、背を向けて歩き出してしまった。
Aはそれを聞くと、すぐに道の先へと歩き出した。
「何処へ向かってんの?」
慌ててAについていくと、Aは眉を下げ、困ったように笑って、歩いたまま答えた。
「カラ松さんのところです。」
「…またストーカー?」
「いいえ。」
はい、と答えられる前提で質問したもんだから、俺は目を見開いた。
「何をしに_「終わらせに行くんです。」
先を歩いたままAが食い気味に応える。表情は見えない。また心臓が高鳴る。嫌な予感がする。
「貴方には随分と迷惑をかけてしまいました。」
ぶわっと汗が流れる。
不味い。いや何が不味いって分かんないけど、止めなくちゃいけない、俺は、こいつを。
「そんなことは_!!!「貴方と会うことも、カラ松さんの影を踏むことも、四角形に収めることも。」
ひゅっと喉から声が漏れる。
こいつが何をしようとしているのかも知らない、分からない。ただ、止めないと、今度こそ、本当に。
「全て終わりにすべきなのです。」
終わってしまう。
「やめろ!!!」
腕を掴んだ。
振り向いたAは、酷く悲しそうな顔をして、俺を見た。
「行かないでくれ…。」
情けない声だった。もうやめてくれ。
「おそ松さん…。」
そんな、勇気を出して、踏み出すことなんかしないで、ずっとこのままでいいじゃないか。
置いて行かないでくれ。
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錠前(プロフ) - ライムさん» ライムさん、コメントありがとうございます!楽しんでいただけたようで何よりです。これからも頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2019年6月30日 12時) (レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
ライム(プロフ) - 作品、めっちゃ素晴らしいかったです!!!これからも応援しています! (2019年6月17日 6時) (レス) id: 928e00f70d (このIDを非表示/違反報告)
錠前(プロフ) - killlifeさん» killlifeさん、コメントありがとうございます!甘いだけじゃない恋、ある種の苦味のある甘酸っぱさ、そういうモノがこの作品のテーマのひとつだったので、伝わったようでとても嬉しいです。これからも頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2019年5月30日 19時) (レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
killlife - とても良い作品でした。甘酸っぱくて何だか学生時代の頃を思い出しました。コメント頂けると嬉しいです。 (2019年5月27日 0時) (レス) id: a010fddd46 (このIDを非表示/違反報告)
錠前(プロフ) - はむめろんさん» はむめろんさん、コメントありがとうございます!心が動かされた、というお言葉、本当に嬉しいです。この作品を通して、貴方に『何か』が伝わったなら、それだけで私は満足です。新作も頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2018年8月18日 10時) (レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:錠前 | 作成日時:2016年10月22日 16時