0<事実は小説よりもと聞くが> ページ1
〜とある家の長男の演説〜
-現在-
拍手に包まれ、男はマイクの前までやってきた。
それはいつもの表情とは違く、微笑んではいるが、強張っているようにも見えた。
男は、失敗しても怒んないでね、と笑うと、ポケットから、皺くちゃになった紙(この男らしい)を取り出して、あぁそうだ、と思い出したように一礼した。
そして、それを読み始めた。
「えー…ほんじつ、え…これなんて読むの。」
客はがくっと肩を落とし、やれやれとため息をついた。
出オチだった。清々しい程に。
スタッフに耳打ちされ、ああ、と納得したような表情をした男は、再びマイクに戻って話し始めた。
「ごれっせき?いただきました、みなさま…。」
それは小学一年生の音読のようであったし、これまでの色々を見れば、本来ならば、けしからん、と激怒されてしまってもいいところなのだが。
聞く客達は幸せそうに微笑んでいた。彼がこうして『これ』に主役の片方として出ていることを、心から祝福しているのだろう。
「あぁ、もうやめやめ!まどろっこしい!!」
そして6行目(この男にしては良く出来た方だ)まで行った頃、男は癇癪を起こしたように紙を放り投げた。客達はおおっと声を上げ、そうこなくっちゃという声さえ聞こえた。
男はまた一礼すると、妙な切り口で話し出した。
「人によって似合う色ってあるよねぇ。ていうか、『その人自身』の『色』?俺は赤色!ヒーローのリーダーは決まってレッド!長男でカリスマレジェンドな俺にぴったしだろ?」
物凄いブーイングが飛ぶ。主に男の弟達からだ。
「あぁもう煩いなぁ。本題を話せって?
まぁ、これ自体が本題なのかもしれないけどさ。」
男は頭をかくと、先程の強張った表情ではなく、いつもの自慢気な表情を出した。
「いや、俺がこの場に立っていることに疑問を持つ人が大勢居ると思うの。だからさ、何でこうなったのか説明しようかなって思って。」
男は鼻を擦り、周りを見た。客達は微笑んでいた。そこからは、お前らしくやってくれ、という意図が感じられた。
「じゃあ、話そっか。長い話になるけれど。」
一同がしんとし、男の言葉に耳を傾けた。
「まぁ、美味い食事もあるわけだし?食べながら適当に聞いてくれればいいからさ。
いやいや、ぶっ飛んでる恋だって思ったよ、こんなふざけているのも、早々ないだろうね。
諦めようとさえ思った。馬鹿野郎って、背中を押してくれた弟達がいた。
これは俺の、最悪な恋の話。まず始まりは__」
33人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
錠前(プロフ) - ライムさん» ライムさん、コメントありがとうございます!楽しんでいただけたようで何よりです。これからも頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2019年6月30日 12時) (レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
ライム(プロフ) - 作品、めっちゃ素晴らしいかったです!!!これからも応援しています! (2019年6月17日 6時) (レス) id: 928e00f70d (このIDを非表示/違反報告)
錠前(プロフ) - killlifeさん» killlifeさん、コメントありがとうございます!甘いだけじゃない恋、ある種の苦味のある甘酸っぱさ、そういうモノがこの作品のテーマのひとつだったので、伝わったようでとても嬉しいです。これからも頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2019年5月30日 19時) (レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
killlife - とても良い作品でした。甘酸っぱくて何だか学生時代の頃を思い出しました。コメント頂けると嬉しいです。 (2019年5月27日 0時) (レス) id: a010fddd46 (このIDを非表示/違反報告)
錠前(プロフ) - はむめろんさん» はむめろんさん、コメントありがとうございます!心が動かされた、というお言葉、本当に嬉しいです。この作品を通して、貴方に『何か』が伝わったなら、それだけで私は満足です。新作も頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2018年8月18日 10時) (レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:錠前 | 作成日時:2016年10月22日 16時