【歌い手】拗らせ10年10歳差【うらたぬき】

わたしのこと ページ1

「もうしんどいんだよお前といると。俺といる時も俺の事見てないみたいで」

電話口で突如告げられた、恋人からの別れの言葉。

「…そっか。ごめんね辛くさせて。他の子探しなよ、ばいばい」

そう言って電話を切る。慣れたものだ。今まで付き合った男性の数は覚えていないし、最初の5人くらいは名前も顔も思い出せない。その程度の関係。

別にわたしは性に奔放ではないし、今まで付き合った人たちもみんな遊びなんかじゃない。誰でもいいから付き合っている訳でもない。
ある程度身体も重ねた。人によっては何度も共に夜を過ごした。

なぜ振られるか。それはわたしが彼らを本気で愛せないから。

人とは不思議なもので、相手が自分をどう思っているか、誰を好きか嫌いか、それとも何とも思っていなくて存在すら認識していないか。それを肌で感じとることが出来る。わたしが彼らを本気で愛せていないことを彼らは察知し、諦めて別れを告げる。

人によってはわたしが本当は誰を好きなのか聞いてくる。

わたしは決まってこう言う。

「手の届かない人」

アイドルなんかよりずっと近くて、一般人よりずっと遠い。届きそうで諦めきれなくて、でも既のところで届かない。期待ばかりさせて一線は引く酷い人。

小学６年生の頃に好きになって、10年。
10歳年上の彼に、10年の片想いをしている。

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出会ったのはとある動画サイト。
小学６年生の頃に兄に貸してもらったスマホである動画を見た。ボーカロイド…初音ミクの動画。独特な機械音に魅了され、たくさんの楽曲を聴いた。

初音ミク以外にもボーカロイドがいることを知って、ボーカロイド達が歌う曲を「ボカロ」というジャンルに振り分けられることを知った。

そして、そのボカロをカバーする歌い手という存在を知った。10年前、その人を知った。

当時はうらた。今はうらたぬき。
最初は独特な声で苦手だったのに、なんでか途中からすごく好きになって投稿されるたびにすぐに聴いてコメントを残した。

たまにやる生放送にも行った。コメントを読んでくれるのが嬉しくてたくさんコメントして、ちょっと毒舌なその人の喋り方がどうしようもなく好きになって。

周りの子は同級生に恋したり、早い子はもう付き合ったりしてる中、画面越しの10歳年上の男性に恋だなんて、こんなに滑稽なことがあるだろうか。

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