* ページ2
席番順に並んだ。
知らない女の人から席番を聞かれて「17です」って見せると「わっ、めっちゃいい番号」って言って、そそくさと後ろの方へ行く。
番号順に並ぶために聞いてきた人たち。その人たちの番号は大体50以降だった。
ライブ会場のドアが開いて、お姉さんが手を握って私を引っ張った。
転びそうになりながらお姉さんについて行くと、目の前にはステージがあった。
っていうのは嘘。目の前は人。黄色い服を着た3人組。私は前から2列目にいた。
薄い煙が立ち篭める会場。開演まで腕時計をずっと見てた。開演までの1時間。最初の方はすぐに過ぎた。
開演まであと10分。
体感、数時間。
心臓が破裂しそうだった。ずっと会いたくてたまらなかった人がそこにいる。もう少しでその姿を見ることができる。
もう少しで、声を直接聞くことができる。
オープニングムービーが流れて、私の頭は真っ白になった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
まだ生暖かい夏の夜。
ライブが終わって外に出た。
会場が暑くて半袖でいたけど、夏とはいえ夜。少し肌寒くて上着を着る。
「夢、みたい…だった」
信じられない。
ついさっきまであの会場で、同じ空間で、同じ時間を過ごして、同じ記憶を残して……
「夢…?これ、夢、かな……」
一生行けないかもと思ってた大好きな人のライブ。
夢かもしれない、なんて馬鹿なこと考えて頬をつねる。思ったより強くつねってしまって、痛っと声に出す。そんな声はライブ終わりでざわついてる周りの音に掻き消された。
「夢じゃ、ない……本当に、いた」
同じ場所に、存在していた。
同じ時間を、生きていた。
いや、それよりも。
「あれって……ファンサ、だった…?」
心臓がばくばく脈打って、あの時の光景がフラッシュバックする。
衝撃が強すぎて、なんの曲だったかなんて覚えてない。
でも、確かに、
うらたさんは、私に向かって笑いかけてくれた。
目が合った。手を振ってくれた。
私の周りにこたぬきなんていなかった。黄色い服を着たセンラーばかりで、緑色のペンライトを振っていたのは確実に私だけだ。
じゃあ、そしたら、あのファンサは。
その時、私は恋をした。
絶対に手の届かない人。
アイドルよりも近くて、友達よりも遠い。
人に言ったら馬鹿にされるような、秘密の恋。
13人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:せんたぬ | 作成日時:2021年4月4日 20時