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By heart 4 ページ41

「いらっしゃいませ」


9月から重岡さんのカフェでバイトを始めた。


「Aちゃーん、また来たよ〜」


よくここを利用してくれる美大生の海人くん


が今日もやって来た。


「いつもありがとうね。今日も描いてくの？」


彼はこの店でよくスケッチをしているのだ。


お店の雰囲気が好きなんだとか。


「うん、このお店まじでエモいからさ。


Aちゃんは噂知ってる？」


「噂……？」


「うん、あそこのカウンター席の左端2つに


カップルで座ると絶対結ばれるんだって〜！


エモいっしょ！」


ハイテンションで話す海人くんに


「そうだね」


とだけ返してから注文を聞いて戻る。


噂の真偽は分からないけれど、


私たちの共有した時間が


確かに「今」という時間を


形作っているのだと思うと


私と廉が出会ってから別れるまでのすべては


決して無駄ではなかったのだと思えたから、


やっぱりこの店は素敵な場所なのだ。


店の名前はリニューアルするときに


重岡さんが新たに付けたのだと聞いた。


café La pureté


フランス語で「清廉」









君は昔、自分は1人だったと言っていたけれど。


私だけが先生で友だちだったと言っていたけれど。


今、こうしてたくさんの人に愛されているんだ。


姿は見えなくても。


声は聞こえなくても。


手で触れることはできなくても。


君は今もみんなを幸せにする力を持っているんだ。


そして、これからも。


だから、この先もずっとよろしくね。









心の中でそう言いながら


私はアイスコーヒーを注いだグラスの


側面にプリントされた


La puretéの文字を指でなぞった。









Fin

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