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「……好きな人?」
会いに行っていた彼女というのは
岸くんのお母さんだったと分かったけれど、
廉には他に好きな人がいたらしい。
「うん……好きな人と約束したから、
一緒に受験したいんだ、って言ってた。
迷惑は掛けたくないから、言いたくない、って」
──俺、Aと同級生になろう思っとって。
──バイトしながら、一緒に大学受験したいねん!
──せやから、先生やなくて呼び捨て。
岸くんの言葉と前に廉に言われた言葉が重なって、
ああ、廉は私のことを好きでいてくれたんだ、
と理解はしたけれど、あまり実感はなくて。
「……迷惑?」
その言葉はよく分からない。
私が彼にとって、というならまだしも。
彼の体の負担のことも考えられなかった私は
迷惑に違いなかったのに。
「そう……その人は自分が病気だなんて言ったら
心配して変なプレッシャーとか
感じるかもしれないからって……」
「……そんな……」
毎日のように見ていたはずなのに、
私は何も彼の本質を知らなくて、
それなのに彼は私のことを
全て分かっていたようで。
全て分かった上で、真実に気づかずに
廉の嘘に勝手に傷ついて、イライラしている私は
彼の目にはどう映っていたのだろう。
「……でも、そんなの命に比べたら
ちっぽけなことでしょ、って母さんは説得してた。
そうしたら、
『俺はあいつのためなら死んでもええ』
とか言っててさ……
その時はまだ廉と話したこともなかったけど、
すごい奴だなって思った……」
「……うん」
今の人が最上、迷うな
というおみくじの言葉を思い出す。
もう彼以上の相手なんて現れないだろう。
けれど、今更それに気づいたところで
どうすれば良いというのだろう。
「それ聞いてから俺、勉強しようって思った。
医者になって、廉みたいな思いする人を
救えるようになろうって……」
「……それで、だったんだ……」
最初から彼はずっと変わっていなかった。
誰よりも全力だった。
私なんかよりもずっと。
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しぃたん(プロフ) - こんばんは。読ませて頂きました。まさかの最後結末だったので心臓鷲掴みからの号泣でした。。凄く儚く綺麗な素晴らしい作品でした。有難うございました。 (2021年3月30日 0時) (レス) id: 46bf8c1460 (このIDを非表示/違反報告)
夜木(プロフ) - ほのぼのさんさん» はじめまして。ほのぼのさん、コメントありがとうございます!完結から1年以上たっている作品なので見つけて頂いて嬉しいです!単語帳に萌えを感じて作ったので感動して頂けて本望です! (2020年9月2日 15時) (レス) id: 9b6e1cc694 (このIDを非表示/違反報告)
ほのぼのさん(プロフ) - はじめまして。すごく奥深くて素敵な作品です。涙が止まりません。1つ1つの単語に積み重ねた時間や様々な想いが込められていてすごく胸がギュッとなりました。素晴らしい作品に出会えて本当に幸せです! (2020年9月1日 22時) (レス) id: b40a6701ed (このIDを非表示/違反報告)
夜木(プロフ) - しおりさん» 大好きだなんて、めちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます。これからもしおりさんに泣いていただけるように頑張ります!笑 (2020年3月11日 9時) (レス) id: 9b6e1cc694 (このIDを非表示/違反報告)
しおり(プロフ) - 主様!!!どんだけ私を泣かせたら気が済むんですか!(とんだ勘違い)主様のストーリーを読むと必ず涙を流してしまいます。主様の描かれるストーリーが大好きです。 (2020年3月10日 23時) (レス) id: b54a6cc2bc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜木 | 作成日時:2019年3月2日 15時