81頁 -R.Nagase-

7頁 ページ7

「そう言えば、Aって高校でも全然


好きな人出来ないよね」


夏休みに入って1週間。


千帆と避暑がてらカラオケに来たけれど


歌うのにも疲れてきた頃、そんなことを言われる。


「そう言えば、この間出来た」


コーヒーショップの彼を思い出して


そう答えれば、


「え、だれだれ？……岸とか？」


なんて見当外れなことを言われる。


岸、というのはクラスの男子だけど


私のことを「先生」呼ばわりするうちの1人だし、


宿題の話以外したことがないぐらい。


「違うから。コーヒーショップで会った人。


名前は知らないけど」


「……それって一目惚れ？


やっぱ、Aはイケメンが良いのかぁ。


お兄ちゃんイケメンだもんねー！」


そう言われると反応に困ってしまう。


彼は確かにイケメンと呼ぶのに相応しかったけれど


だから一目惚れ、という訳でもないし。


学校外で出会って、素性も何も分からない


ミステリアスな感じと


何とも言えないアンニュイな雰囲気に


好奇心のようなものをくすぐられたのだ。


それに、私はお兄ちゃんのことはタイプじゃない。


むしろ昔から彼には劣等感を感じていて


妹に生まれたことが嫌だったこともある。


だって彼は優しくて誰からも好かれるし、


本気になれば何でも出来るのでは


というほど器用なんだもん。


中学時代から彼女は切らしたことがないし。


ああいう人の近くにいると、


自分がちっぽけな存在に見えて仕方なくなるんだ。

8頁→←6頁

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す