81頁 -R.Nagase-

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レジで注文をして、


アイスコーヒーを受け取ってから


2人掛けのテーブル席に座った。


店員さんは笑顔の素敵な人だった。


向かい合う席にはスクールバッグを置いて


コーヒーのグラスの下にハンカチを敷く。


店内はクーラーで冷えていて快適だけれど、


夏の暑さでじきに氷は溶けるから


水滴で滑るのを避けるためだ。


イヤホンを耳にはめて


テーブルの上にノートを取り出し、


シャーペンを持って条件付き確率の問題を解く。


シャッフルでかけていた音楽だけど


自分のお気に入りの曲になる。


思わず家にいるときの癖で


左手で消しゴムを弾いて遊んでいると、


テーブル内にとどまれなかった消しゴムが


思いの外遠くまでピューンと飛んで行き、


奥のカウンター席の下に落下した。


不運なことに近くの席に座っている人は


消しゴムが飛んできたことに気づいてないみたい。


いきなり無言で足元の消しゴムを拾うのも


ちょっと考えものだけど、


どうやらその人も勉強しているみたいだから


あまり話しかけない方が良いかな……


どうすべきか迷いながら近づいて行くと、


その人はとても綺麗な顔をしていた。


真剣な眼差しでノートに向かっている横顔は


まるで写実的なギリシャ彫刻みたいだ。


どうやら左利きのようで、


左手にシャーペンを持っている。


私服だし、大人っぽい印象を受けるけれど


ノートを見ると偶然にも


私と同じ確率の問題を解いている。


勝手にちょっとした親近感を覚えて、


声を掛けてみることに決めた。


「あの……足元に消しゴム落としてしまって」

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