81頁 -R.Nagase-

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「お疲れ」


10月の半ば頃。


いつものようにカウンター席に行って、


廉くんにそう挨拶した。


「おはよう」って言う時間でもないし、


「こんにちは」なんてあんまり使わない。


まだ「こんばんは」は早すぎるから


なんとなくいつもこう言うんだ。


「おう、今日遅かったな？」


時刻は18時。


いつも時間を決めているわけじゃなかったけど、


だいたいは16時30分頃に来ていたから


そう尋ねられたのはごく自然のことだ。


「文化祭の準備が長引いちゃって」


と言うと、彼は少し懐かしそうな目をして


「文化祭か……」と言った後、


「何やるん？」


と興味津々の様子で聞いてきた。


「純喫茶、……って言ってもコーヒーとか


カステラとかの出来てるやつ売るだけだけど」


衛生上の理由とかで、よくある調理なんかは


禁止されてるから、お店から仕入れたものを


売るだけの簡単な模擬店。


教室をそれっぽい雰囲気に改装して当日を迎える。


「そうなんやぁ……」


遠い目をしてそう言う廉くんは


文化祭を経験したことがあるのだろうか、と


不思議になったけれど


あまり聞かれたくない話題かも、と思うと


軽率に踏み込むのは躊躇された。


「良かったら、来ない？」


そう誘うのが私には精一杯で。


でも、それだけでもかなり勇気が必要だった。

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