#首輪のいらない関係（拓実） ページ15
.
「お姉さん、俺のこと拾ってくれない？」
今思い返せば、
あぁ、ついに幻覚と幻聴に襲われるとこまできたかと心底ぞっとする。
だけど、あのときの私は日々のストレスの蓄積でおかしいぐらい酔っ払っていて、正常な判断ができる脳みそじゃなかった。
派手な猫を拾っちゃったな〜ぐらいにしか思ってなくて、むしろ面白がってたのが怖くて仕方ない。
正確な時間なんて覚えてない。
まだ日付は跨いでなかった、はず。
あの日は結構、というよりもかなり飲んで飲んで飲み尽くして、どうにか家まで帰ってきたような日だった。
近くのコンビニでタクシーを降りて、缶チューハイとおつまみを買ったらしい。
朝起きたらビニール袋とレシートがぐちゃっとなって残ってたから間違いない。
マンションのエントランスのすぐ手前。たまに茶トラの野良猫ちゃんに会える植え込みのそばにうずくまっている人影が見えた。
近づくと体格的に恐らく男性。
髪の毛が淡いピンク色をしていて、桜みたいでかわいいなって思った。
私のヒールの音に気付いて桜の彼が顔を上げる。
「……っ」
びっくりして声が出なかった。お酒のせいで不安定な記憶の中で、この瞬間はやけに鮮明に覚えてるぐらい。
とんだイケメンだったから。その上、私の顔を見た後の第一声でこんなことを言うもんだから余計にびっくりした。
「お姉さん、俺のこと拾ってくれない？」
もっと驚いたのは、二つ返事で「いいよ、ウチおいで」と返した自分だ。
何してんの、あの時の私。
玄関のライトで照らされた髪は、改めて見るとさっきよりも彩度が高くてはっきりとしたピンク色をしていた。
そしてやっぱり整った顔。
部屋に上げて、きっとそのままお酒を飲んで、そこから先の記憶はもうない。
翌朝、頭が痛くて目覚めた。
私以外誰もいない静かな部屋。
いつもと違うのは、少しの二日酔いとぼんやり頭の片隅に残るピンク髪の彼。
昨日あったことは幻だったのか。
「なんだったんだ、あの子」
部屋を見渡して思い出そうとしてもよくわからないし、今日もいつも通り仕事。
強いて言えば、シンクの隅に置かれている2本の凹んだ空き缶が、唯一彼がいたであろう証拠だった。
わざわざ逆さまにしてある、なんか律儀だなぁ。
電車に乗る直前、スマホが光った。
“ ジュン ”
『また行くな』
あぁ、そんな名前だったんだ彼。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 802人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ツキコ(プロフ) - ななしさん» お返事が遅くなってしまいごめんなさい、、！コメントありがとうございます🥲リアリティ求めてたら書いててちょっと苦しくなりました笑 伝わったようで嬉しいです🙌更新がんばります〜！！ (2022年5月7日 21時) (
レス) id: f54c094325 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - 純喜のやつ、リアルでやばいですね⋯お話好きです✨ご無理はせずに！更新楽しみにしています⋯🥰 (2022年3月30日 0時) (レス) @page31 id: 18bfafaa9d (このIDを非表示/違反報告)
ツキコ(プロフ) - はなさん» 外し忘れていました…！報告していただきありがとうございます！ (2022年1月17日 18時) (レス) id: f54c094325 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - オリジナルフラグたっちゃってますよ……！ (2022年1月17日 16時) (レス) id: 1f4f011eda (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ツキコ | 作成日時：2022年1月16日 22時
