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ふたつ飛ばしで駆け上がった階段の先のドアを開けたら、思っていたよりも大きな音が鳴る。肩を揺らしてこっちを向いたAに駆け寄れば、ぽかんとした顔がこっちを見ていた。
「何かありました？」
『あ、いや、その』
「レコーディングのこと？」
座ってくださいと言われて隣に腰を下ろして、青い空が全てを包み込みそうだった。そういえば、初めて会った時もこんな空だった気がする。
Aのレコーディングが延期されたと聞いたのは、ジェノを誘ってお昼に行こうとしていた時だった。声が出なかったなんて言うから風邪を引いたのかと思っていたけど、顔を見る限り元気そうだ。いや、ヘチャンが見たら、何かわかるのかな。
「ごめんなさい、忙しいのに」
『いや俺は大丈夫だけど、Aが』
「わたしが？」
『録音、いつも1番早く終わらせてたから』
歌詞がプリントされている紙には、赤や黒のペンでAの字が書かれている。勢いでここまで来たけど、何を言えば良いのかなんて分からずにいる。特に最近は、なんだか少し、ぎこちなかったから。
「風邪を引いたとか、そういうことじゃ無くて」
『そうなの？』
「ただ、あの場所に立った瞬間に声が出なかっただけ」
『それってすごく、』
「すごく？」
『…いや、なんでもない』
気付いてる、本当は。あの頃と変わらないなんて嘘で、いつまでも側にはいないのも、俺の前でにこりと笑うようになったのも。Aは元気かとジャニヒョンにも聞いたけど、あれを見て元気じゃないって思うの？と顔を向けた先には、ヘチャンと一緒にジャンプしているAがいた。無理して笑っているみたいだと言った時、ヒョンはどんな顔をしてたんだっけ。
「今度は上手くやります」
『A、俺たち』
「だから心配しないで」
『A、話聞いて』
「困らせないし、泣かないから」
守るよと言ったのは誰だろう。隣にいるのに、透明な壁がある。携帯が鳴って、手を引かれてエレベーターに乗って、ドアが開いた先にはジェノがいて、いつの間にか手は離れていて、Aは先生に呼ばれてしまって、
「A、やっぱり今からレコーディングだって」
『…声が出ないのに？』
「出なくても出すよ、Aは」
最後だと言われても実感が湧かない。遠くに行くわけじゃない。それでも手を伸ばしたら繋げる距離にいて欲しいと思うのは、我儘なのか、分からないまま。
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作者名：yom | 作成日時：2023年6月21日 18時
