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師匠は言った。
──『大丈夫、大丈夫だ』
俺達はそれを深く信じた。勿論その言葉に確証なんて一つも無かったし、怪しかった。他人から見れば、大丈夫なのかと心配されるほどに、俺達はその人を信じていたのだ。
──『大丈夫、大丈夫だから』
あの人は俺達をあやすように、安心させるように、愛すように、大丈夫と背中をさすって、笑顔を浮かべた。
だから俺達は、一度も嘘を吐いたことがない師匠を、この上なく、愛し、尊敬した。そして待っていた。
けれどあの人は二度と戻らなかった。
「落ち着け、ノア!」
最愛の妹の背中をさすって落ち着かせる。
「だって、だって、ママ、ママが……!」
ノアの涙が服を濡らした。
暖かかった。
「大丈夫、大丈夫だ。あの人は戻ってくる!」
あの人のように、大丈夫、大丈夫と、何度も励ましの言葉を投げかけた。病に伏せたノアに、何度も。けれども、ノアは、帰らぬ人となってしまったのだ。
何の悪戯か、あの人は、ノアが亡くなった次の日に帰ってきたのだ。
「なんで、なんでぇっ!!!」
師匠は、暗い顔で俯いて言った。「すまない」と。俺は許せなかった。妹は、あんなにもあなたを待っていたのだから……。
「すまない、本当に……ノアの墓は……」
「誰が教えるかっ!!!」
俺はその場を駆け出した。
知っていた。師匠がノアを大切にしてた事も。
俺も大切にされていた事も。
今胸が苦しくては仕方ないのも。
俺は逃げた。
「待てっ、リト!!!」
これは俺の《転生前》の記憶だった。
「リト?」
蜜香に呼ばれ、意識がはっきりとする。
「……蜜香……」
目の前には、髪や瞳の色は違えど、前と変わらない向日葵のようなノアがいた。
「どうかしたの?」
蜜香には、前の記憶は無い。ノアとしての記憶は一切無く、橘 蜜香としてだけの記憶が残っているようだった。
「いや、昔の事を思い出していただけだ」
「昔? あ、もしかして、ママとリトが助けてくれた時の事?」
「……違う」
「え!!? じゃあじゃあ、リトが蜜香の手を握って、大丈夫って励ましてくれた時の事?」
「……覚えてるのか?」
「うん! 熱を出した時の事でしょ?」
……?……やっぱり覚えていない。お前の手を握って、大丈夫と声をかけたのは、前、病を患った時が『初めて』だ。
「……それ、いつのことだ……?」
「え? 覚えてないよぉ……！」
「……」
一体、どういう……。
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作者名：ランコ | 作成日時：2018年12月22日 15時
