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一side
部屋に入ると、黒髪黒眼の、酷く整った顔をした女が一人、こちらを見て笑っている。
「(あの女が、カベルネか?)なぁ」
声をかけると更に、目を細めて笑みを深める。
そしてやっとカベルネが口を開いた。
「あはは、焦らなくてもいいわよ。初めまして、一。あたしはカベルネよ」
「ああ、知っている」
カベルネは横に冷やしてあるワインを一つ開けて、二つのグラスへと注ぐ。
「はい。ああ、別に毒は入れてないわ。安心して飲んでね?」
「その証拠は?」
「あたしがそれを飲み干したらいいの?」
「止めておく。俺は飲まない」
「あら残念」
なぜか、とても懐かしい。
心の穴が埋められていくような、感覚がする。
「……」
「心の穴が、埋められていくような感覚がするでしょう?」
「!!?」
なぜこの感覚がわかるのだ。
まるで共有しているようじゃないか。
「そう警戒しないでね、相棒」
「相棒……?……!!っ……」
カベルネがいきなり蹴りを仕掛けてくる。
咄嗟に手で防ぐが、女とは思えない勢いと威力だ。腕がミシリと軋んでいた。
「一体何なんだ……」
「防がれちゃった」
怪しく笑みを深めると同時に、有り得ない速さで目の前まで迫る。
拳が、ゆっくりとこちらに向かう。
目ではゆっくりなのに、身体は追いつかない。
「(なんだこれ、なんだこれ!!?)」
『人とは思えない速さ』で迫っきて、威力が恐ろしいほど強い拳。
「(当たる!!!)っ……!!!」
腕一本で防げるとは思っていない。
だが、衝撃を和らげるには、これがベストだった。と信じたい。
「ぐぁっ!!!」
やはり有り得ない強さ、速さ、威力に、俺は壁に激突してしまった。
意識が朦朧とする中、目の前にあいつの顔が現れる。
「(こいつの瞳は、黒じゃなかった……)」
今気にすることじゃない。しかし異様だった。
「まだ意識があったのね」
なぜなら、カベルネの瞳があの美しい濁った黒眼ではなく、血のように赤い瞳だったから。
「もう、寝てて。後はあたしが……」
何を言ってるのかわからないが、どこか、安心させてくれるかけ声だったのだろう。
意識を失った。いとも簡単に、安らかに。
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作者名：ランコ | 作成日時：2018年12月22日 15時
