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小さい頃から、お医者さんに憧れていた。
…って訳じゃない。
私が医者になったのは、ずっと消えない罪悪感のようなものが胸にあるからだ。
・
「回診だよ。なに？悩み事？」
私が入院していた頃からいた看護師の慶ちゃんと回診に行くと、入院中の中学3年生のあやめちゃんは、明らかに「悩み事があります」と言いたげな顔を私に向けた。
「慶ちゃんは出てって。」
「え？待ってよ、俺は追い返されるの？
増田先生より俺の方が人生の先輩だよ？」
あやめちゃんから冷たくあしらわれ、何とかこの場にとどまりたい慶ちゃんは、必死にアピールした。
「でも出てって。」
「待って、じゃあシゲ先生ならいいの？
シゲ先生もだめ？」
慶ちゃん、自分だけ断られるのが嫌なんだ。
なんかちょっと可愛い。
「当たり前でしょ。もうオジさんじゃん。
増田先生はまだ25だもん。女の子同士だし。」
まあ、確かに私が小さい頃から医者と看護師だから、オジさんと言えばオジさんな訳だけど、あやめちゃんも容赦ないな。
思わず苦笑いをすると、諦めた慶ちゃんは渋々部屋を出ていった。
「で、どうしたの？恋愛相談でしょ？」
「ちょっと！なんで恋愛相談って分かるの？！」
慶ちゃんを締め出した時点でバレバレだよ。
それでも、バレないと思っていたのが可愛い。
青春してるな。
それが、私には眩しかった。
「誰にも言わない？」
「うん。」
疑うように尋ねたあやめちゃんにうなずくと、声を落として話しだした。
「あのね、私、実は雅紀くんのことが好きで…」
担当患者のことだもん、知ってましたよ、随分前から。
本人には言わないけどさ。
「でもね、今朝翔くんから告白されたの。
もうすぐ手術をするから、その前に気持ちを伝えたかったって。」
翔くんか。シゲ先生の担当患者だ。
転院して、難しい手術をするってカンファで言ってたな。
「で、どうしよう？
雅紀くんのことは好きなんだけど、でも手術をする前に伝えたかったなんて言われたら断りにくいし、せめて想い出になればって思ったり…」
あやめちゃんの相談は、私の胸から消えない痛みを蘇らせた。
あやめちゃんには、こんな傷を背負って青春時代を終えて欲しくない。
「どうするかはあやめちゃんが決めることだけど、参考までにちょっとお話してあげる。」
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作者名：こま | 作成日時：2019年5月12日 20時
