邂逅 . 6 ページ6
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「 私ご飯作らなきゃ、それじゃあ 」
「 ……うん。幸せに、なってね 」
「 ……………うん、ありがと 」
この空気感が恐ろしいほど私の心を
見透かされているような気がして
私はその場から足早に立ち去った。ま
また、こうやって逃げるの
だけど、少しだけ。
ほんの少しだけだけど心が軽くなった気がした。
幸せなんて、今の私には到底舞い降りては来ないだろうけど
もう少し待ってみるのも悪くない
足取りが軽くなって
私は家の扉のドアノブに手を掛けた。
彼の好きな肉じゃが。
今日も帰ってこないかもしれないけど気長に待てばいい
そう安易と考えていた私をぶん殴りたい
小さくも聞こえてくる女の人の声
そこまで耳が悪くないわけじゃない
これは雄と雌の声
「 あっ 」
「 オイ。声抑えろッッ 」
ここは私の家。
家賃も光熱費も水道代も全部私が払ってるの
家具も私のだし保証人だって私で通ってる
彼はただの居候
帰ってくればご飯は置かれているし
温かいお湯だって貼ってある。
ここまでしてまでこの人と一緒に居る理由って何だ？
私に1度でも"ありがとう"と声に出したことはあるか？
1度でも"愛してる"と行為中以外で言われたことがあったか？
怒りと哀しみで感情がぐちゃぐちゃになる
彼をここから追い出したとしても？？
私はここで住めるのだろうか
独りで。住めるだろうか
気が付けばスーパーの袋も全て玄関前に落として
マンションを出た。
居ない。きっと居ない
彼氏が居るって、幸せにやってるよって言ったのに
彼に合わせる顔がないのに
助けを求める愚かな私をどうか許してほしい
「 っ、出久… 」
「 …！Aちゃん？？ 」
彼の姿が見えた瞬間
目から涙が零れ落ちた。
息を切らして彼に飛び付き
これでもかと言うほど抱き締める
こんなに出久ってやせ細ってたっけ
彼の目は少し赤く腫れている
「 大丈夫。大丈夫だよ 」
そうやって私の頭を優しく撫でるの。
いつもそうだった
何かあればすぐに聞くんじゃなくて先に慰めてくれる
力強く私を抱き締め返してくれる
「 泣いて、たの…？ 」
「 …僕さっ……やっぱり君のこと…諦められなくて、 」
「 いず、く… 」
それ以上私達は何も言葉を交わさず
彼の家へ向かった
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作者名：shiro | 作成日時：2022年5月15日 10時
