5話. ページ7
グラウンドに来て早々、
相澤先生が放った言葉。
｢よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう｣
『は！？』
入学初日の大試練。
…………これが雄英？
『頑張ろうね、お茶子ちゃん』
出席番号の若いお茶子ちゃんに、
私は笑顔で言う。
｢Aちゃんは素直やなぁ｣
『素直？どこが？』
私がキョトンとして聞くと
お茶子ちゃんは、また屈託なく笑った。
素敵だな、とひそかに思う。
こんな風に笑う自分は
どうやっても想像出来ないから。
｢だって、入学初日だよ？
いくら何でも理不尽じゃないかな……
Aちゃん、どう思う？｣
『まあ、確かに………』
教師とは思えないブラックな表情をして
除籍処分を宣告する先生を思い出し、
私は苦笑いする。
『でも――』
｢でも？｣
『なんか、私達を試してる気がして。
全力で、頑張れよ！……みたいな』
そう言い終えた後、
今言ったことが
お茶子ちゃんの質問の答えになっていないことに気付いた。
『ご、ごめん……！………偉そうに』
私はいつもこうだ。
変なことばかり言って、
このまま会話が途切れてしまう。
｢格好いいなぁ｣
『え？』
帰ってきた予想外の言葉に、
私はお茶子ちゃんをまじまじと見た。
｢格好いい。上手く言えないけど…………、
自分の思ったことをちゃんと言えて、
何でも一生懸命やろうと出来る人。
………格好いいと思うんよ｣
『そ、そんな！私なんて………っ』
これでもかというほど褒められて
頬がカッと熱くなる。
｢よし！Aちゃんのおかげで元気出た！
頑張ってくる！｣
お茶子ちゃんはそう言うと、
グランドにのトラックの方へと走って行った。
『よし、私も頑張る！』
私も列に並ぼうと一歩足を踏み出した時
少し遠くからお茶子ちゃんの
声が聞こえた。
｢Aーちゃーん！｣
『な、なぁに――！！』
目をこらしながら叫ぶと、
お茶子ちゃんは
私の頬を指さしていた。
｢言い忘れとった！ほっぺ！
手のひらの跡ついとる！赤い！｣
『え？』
驚いて、自分の頬を触ってみる。
照れて紅潮した余韻がまだ
ほんのりと残っているが、
確かにヒリヒリと痛い。
そういえば…………
グランドに行く前、
活を入れるために
頬を叩いた記憶がある。
『ありがと――！』
私はお茶子ちゃんにVサインをし、
列へと急いだ。
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作者名：めも | 作成日時：2020年8月11日 22時
