岩泉一:忌諱 ページ2
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直感のようなものだったが、こいつは苦手だと思った。柳川Aという人間はどうにもいけ好かなかった。
どうにもあの女の性格が悪いらしいというのは風の噂で聞いていたし、その噂はあながち嘘ではなかったようだ。
“柳川と付き合い始めた”
そう嬉しそうに報告してきた幼馴染に嫌な顔を隠す気もなく、「性悪同士お似合いだな」と皮肉を投げつけた日から5ヶ月の月日が経とうとしていた。
柳川はいつも俺を見て顔を一瞬だけ強張らせたのちにこりとお得意の笑顔を貼り付ける。
俺が苦手だと察する事は人の気持ちに鈍感だと言われる俺にでも可能な事だったし、彼女もあまり隠そうとはしていなかったようにすら思う。
尤も、俺も彼女を苦手としていることも向こうは知っているだろうが。
兎角、俺と柳川は一生分かり合えない者同士としてお互いを認識していた。
及川徹という男を間に挟んだとしても、だ。
及川はデレデレと情けない顔で奴曰く“天使のような”柳川を甘やかすが、柳川は及川の言うような“天使の生まれ変わり”ではない。__気にいらないものは片っ端から潰していくし欲しいものはどんな手段を使ってでも手に入れようとする。
俺が柳川の“絶対コイツ学校来れなくしてやる”リストに俺の名前が刻まれていないのは柳川はそれこそ及川に愛想を尽かされる一因となり得るとしっかり理解している上での事だろうし癪な事だが“及川の幼馴染”という立場は彼女から身を守ってくれた。
つくづく思う。ずる賢い女だと。
そんなずる賢い柳川の欲しいものリストに及川が連なったのは及川が柳川に惚れる運命を司っていたようにすら感じる。
彼女の性格が曲がりに曲がったものだというのは知っていたようだし、まああの及川が気づかねえわけがねえ。その観察眼はセッターとして俺たちを幾度となく救ってきたし、あいつは人の気持ちや性分に常人の何倍も敏感だった。
「徹くん、今日デートだって言ったじゃん!」
ぷくっとあざとく頬を膨らませる柳川に及川はごめん、と謝罪の言葉を吐き出した。及川は性格と違わず、美人というカテゴリの中でもキツめの顔立ちの彼女の頭を撫でる。
「今度埋め合わせするから。ね?許してよAちゃん〜…」
仕方ないなあ、なんて笑う彼女は決して及川がバレーを優先することを咎めたり責めたりしなかった。
__それが及川の彼女として、大切なことだと理解した上で。
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作者名:松下 | 作成日時:2019年10月29日 7時