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直接再会できた喜び。
そして、たぶん。
嫉妬していた自分に対する嫌悪感。
立場を受け入れられなかった小さな器の悔しさ。
そして、今素直に喜んでしまったら承認欲求を受け入れてしまうのではないかって。
でもスマートに取り繕う余裕もない。
感情や頭の中が、もうわからない。
グクはまっすぐ私の様子を伺っている。
たぶん心配してくれているのと、何だろうという疑問が半々くらいかな、
「あ、虫」
「えっ」
羽のついた黒い物体が頭上を飛び回る。
「ひぃいっ!!!」
おもわず抱きつくようにしてその場から離れる。
「大丈夫ですか?」
「あっ、ごめんなさい...」
勢いとはいえ、しがみついてしまった。
「あ、後ろ」
「ううっ」
守ってと言わんばかりに、近寄る。
「ふふ」
「もういないですよ」
「なっ、」
「あ、また来た」
「ひぃっ!!」
くくく、と手を口に当てながら笑う。
「すみません、いないです」
「っ、」
笑顔につられて、笑みが零れる。
「笑ってる方がいいです」
「難しい顔してると、皺々になっちゃいますよ」
「...その、素直に喜んでいいのかわからなくて、」
「僕に会いたくなかった?」
「違う、会いたかったよ!なんていうか、覚えててくれたんだなって...」
「忘れるわけないじゃないですか」
「っ、」
信じたい気持ちと相反する思い。
「この後、時間ありますか?」
「あっ、うん」
「じゃあ、16時に」
ここから見える位置にある高層階のホテルを指差しながら、きてほしい、と伝えられた。
「はい、」
「まあ、僕に会いたくないならいいけど」
「行きます!」
少し満足げな顔をしている。
「あ、そういえば、スタッフさん達は?」
「お腹痛いからトイレって言ってきました」
小さな悪行につい笑ってしまう。
「なんかその、だいぶ...変わりましたね?」
「なにがですか?」
「いや、その、距離感というか、話し方というか...」
「あ〜、」
「会えなかった時間がそうさせたんだと思います」
「...ごめんなさい、韓国に遊びに行くって約束したのに」
「いえ、その僕が、」
もう行かなきゃ、と時計を確認し、後ろ姿のまま、手を軽く上げて私に別れを告げた。
さっきまで色々悩んでいたのが嘘みたい。
次の再会まで、少し時間を潰してから向かう事にした。
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作者名:あぽ | 作成日時:2023年7月7日 8時