悲劇姫【わたしの幸せな結婚】 (ページ10)

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開花　１ページ10

その日は突然訪れる。

それは、Aが部屋の掃除を行っていた時である。山奥にあるためか中々人が来ないこの屋敷の玄関を叩く音が聞こえたのだ。

今日は、ゆり江は家にいない。

出るのはAしかいないのだ。
Aはエプロンをとり、戸を開けた。

『こんにちは。
...__家様が清霞様になんの用でしょうか』

「わたくしめのような下のものを見ただけでわかるものなのでしょうか」

『久堂家にお世話になっている身なのでこのくらいのことは当たり前でございます』

「流石は、たくさんの民に愛された橘家のご令嬢...」

この使いはAの周りを覆っている空気が凍ったことに気がつくことができなかった。

この使いは忘れてしまっていた。

近年、Aが橘Aがなんと言われているか。
父に似ていた漆黒の黒髪が、あの日以来年々白くなり、今や黒髪の名残などない真っ白。全てを見透かすような瞳。背筋も凍るような冷めた声色。

そんな彼女のついた名前は“冷酷無残の悲劇姫”。

久堂家にきたお客様だからと失いつつある愛想を絞り出していたものの...

『あの、清霞とのお見合い関連は本家通してもらわないと困るんですけど。どうせ本家通さずこちらにいらしたと言うことは芙由様のお眼鏡には通らなかったのでしょう。それか、__家は礼儀作法もわからないはしたない名家なのでしょうか。』

「は？」

『お嬢様も顔が醜女であるために外国のお医者様に頼んで顔を整えてもらったんですよね。奥様みたいに上手くは行かなかったでしょうよ...お父様の腕にかなう医者などいないと言うのに。より醜女になられましたよね。あぁそんな醜女がうちの清霞に気に入られようなどおふざけですか』

「お前！
落ちた橘の生き残りが久堂家の慈悲で生かされているのによくも」

『まあそのお手に持ってらっしゃるお見合い写真を見せてください』

使いのものはお見合い写真を持って帰っては自分の首が明日にはないと考えたのか、嫌気を持ちながらもお見合い写真をAに渡した。

Aは清霞のお見合い相手であろうご令嬢の顔をみてニヤリと笑う。

「えっあぁ゛！」

お見合い写真を手から出ている炎で燃やした。

『驚きのようですが大丈夫ですか』

「異能力は使えないはずじゃ」

使いの絶望に満ちた顔にAはうっすらと笑みを浮かべた。