悲劇姫【わたしの幸せな結婚】 (ページ9)

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つぼみページ9

庭の木々には蝉が止まり、音色を奏でている。
窓辺につけてあった風鈴がまたそれを引き立てる。

ゆり江「お嬢様、お着替えお手伝いいたしましょうか」

『大丈夫です。
でも、簪だけ選んでもらってもいいですか』

ゆり江「はい、喜んで」

そんな日、Aはいつもより美しくなろうと頑張っていた。
17回目のお誕生日のために奥方が用意していた箱の用意してあった手紙を持って呉服屋に行って頂いた着物をきていた。
そして、いま髪の毛を括るためのかんざしを選んでいたところである。

数が多いとはいえないが一つ一つが貰い物なので選ぶに選べないのだ。

ゆり江は大きくなるにつれ家事を手伝ってくれるようになったAに感謝はしていたが昔のような笑顔や自分に頼ってくれることがなくなったので少々寂しかった。
だから、こうやって出かける際にお手伝いするのが喜びだった。

数々の簪が机に並んでいる。

『せっかく清霞さんとお出かけするので清霞さんにもらったものにしようかなと思ったのですが思いの外多くて』

ゆり江「それは坊ちゃんが喜びますわ
ゆり江はこの藤の花が今日のお嬢様にぴったりだと思いますの」

『じゃあそれにしようと思います。』

ゆり江「花火大会に坊ちゃんが誘うなんて明日は槍でも降るのでしょうか」

二人の間には軽い笑いが生まれた。

ゆり江は知っていた。
清霞がAをこの逢瀬に誘った流れを。
中々自分の気持ちをしっかりと伝えることのできない清霞が花火大会の件について話すまでが長かった。

ゆり江は今か、今かとタイミングを伺っていたが清霞は最後、ゆり江のいないところでおこなったのである。

少し頬を染めて話してくれた時には奥様や葉月様に電話をして喜びの舞を踊るくらいには嬉しかった。

清霞「A、まだか」

『はい。
ただいま準備が終わりました』

ゆり江「どうですか、坊ちゃん」

清霞「あぁいいんじゃないかな」

ゆり江「もう！
もっと言うべきことがあるではないのですか」

この名前のつけようのない関係が二人にとっては大切だった。

清霞はあの日の約束を忘れず守り続けAは周りの人間に揺られ心に芽生えた思いを抱いていた。