玉響のひと時はどうにも ページ39
「おくりゃから、あそぼー」
「…群れるつもりはない。あと俺は大倶利伽羅だ」
「倶利伽羅、遊ぼ」
「…馴れ合うつもりはないからな」
「倶利伽羅、ばいばい！。…っ、…ねえ、なんで…っ行かなきゃ、行けっ、ないのっ…？」
「……泣くな」
「わー、倶利伽羅優しい」
「嘘泣きか」
「え、わ、ちょ、あはっ、あははははっ！くすぐんないでよ！ふはっ、助けてみっちゃん！あははっ！」
…そいつの笑顔を見るのは悪くなかった
人の子は、こんなに無邪気に笑うのか、と思った
「七つ、ねぇ…戻って来てくれたら嬉しいんだが…」
隣のやつが、酒を飲みながら言う
「…桔梗か」
「そうだよ。あの子は面白い事に気がつくのに…それに、花道も茶道も、香道も仕込みたかったな…」
「…七つの子にか」
「ああ。…琴でもいいかもしれない。いや三味線も…笛もいいな…そういえば書を教えていなかった……いつでも構わないけど、たまに顔を出してはくれないものか…」
未練しかないこの男に、些か呆れた
まあ、いつものことではあるが
「なあそう思わないか大倶利伽羅」
「…馴れ合うつもりはない」
「…君なぁ…」
まあ、実際あいつが左文字三兄弟を詩に詠んだことは聞いた。こいつは小夜からそれを聞いて大層嬉しそうにしていた気がする
「…雪、地に積もり、桃、花開く。花曇りの頃、ただ月の影差すばかり…美しい言葉選びだと思わないか」
「…知らん。…俺はもう寝る」
「…無愛想なやつめ。…おやすみ」
「…ああ」
「倶利伽羅ー！さっきねー、歌仙に褒められたんだ」
「…そうか」
「…なんだよー、反応うすいな…」
「…何があったんだ」
「詩を作ったんだ！…雪、地に積もり、桃、花開く。花曇りの頃、ただ月の影差すばかりって！」
「…そうか」
「…むう…反応が薄いなぁ…」
「悪かったな」
「ま、いっか。…ねー、昼寝しようよ」
「…馴れ合いは他の連中と…」
「えー、だって倶利伽羅と一緒じゃないと猫がやって来てくれないもん」
「…茶室の縁側」
「一緒にいこうよ」
「…馴れ合うつもりはない」
「やだ」
「…勝手にしろ。俺は寝る」
「お？」
「…なんだ、茶室には行かない」
「でも寝るんでしょ？勝手にしていいんだよね」
「…好きにしろ」
「わーい」
昼の一刻にも満たぬ時が、どうにも心地よかった
幸せは玉響だ
「大倶利伽羅、遊ばない？」
本質も、強さも、言霊も
似てすらいない、偽物に廼まれた
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作者名：シャボン玉 | 作成日時：2019年9月22日 17時
