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4階も半ばに差し掛かったところで、ゆっくりと足を進めていたAはハッとその気配に気がついた。
と、同時に彼女の体は真横の部屋から飛び出してきた何かに押しのけられ、扉ごと建物の外へと放り投げられた。
「ぐっ…!」
「Aさんッ!!!!!」
身を押し出された彼女は一瞬のうちに乙骨の視界から消える。
こんな、こんなところから落ちたら…
落ちた人間のその先を想像した乙骨は顔面を蒼白にして愕然とした。
ジャリ…という音にハッと顔を向ければ、目の前には小学校の呪霊よりも遥かに悍ましい呪いが乙骨におよそ目と言えるかはわからないものを向けていた。
その視線は乙骨の体の自由を奪い呼吸を止めさせるには十分で、目の前の呪霊に捉えられた乙骨はその場から一歩も動くことが出来なかった。
「(動け、動け動け動け…動けよ!!)」
あ…死ぬ――?
足に杭が打たれたように動けない乙骨は、その瞬間己の死を垣間見た。
「避けて!!」
叱責するような声にハッとする。
その瞬間目の前の呪霊は翡翠の光によって貫かれた。
「ぁ…A…さん…?」
建物の外、空中に浮かぶ玖吼理の左手に、先刻呪霊に押し出され落下したAが立っていた。
空中へ放り出されたあの時、Aは瞬時に外に待機させていた玖吼理で自らの体を地面に叩き付ける寸前で捉えたのだ。
Aは未だ腰を抜かして座り込み、死人を見るかのように自分を見つめる乙骨に「立てる?」と手を差し出す。
乙骨はハッとしてその手を掴み、立ち上がると同時に自分を助けてくれた彼女に礼を言った。
「さっきの奴、倒したの?」
「いや、寸前で逃げられた。多分いるとしたら上だと思う」
乙骨が近くにいたため出力を抑えたといっても、あの時の光線で祓えなかったのは失策だったとAは顔を顰めた。
玖吼理の単眼と同様に翡翠に輝く一直線の光線…ビームとでも言えばわかりやすいか。
乙骨の立っていたギリギリをその光線が貫き、建物の大部分を抉っていた。
なんて規模、なんて出力。
乙骨はAが日々多忙である所以はこの強さからきているのだと漠然と納得した。
「玖吼理の武器は単眼から放つ光線と、右手のこのナイフ」
そういいながらAは玖吼理の右手からボディと同じ色をしたナイフを出した。
玖吼理は遠近マルチに対応できる案山子の中でもマイノリティな存在なのだ。
「いつまた襲ってくるかわからない。警戒して進もう」
2人は慎重に最上階である5階へ続く階段に足をかけた。
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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時