神様の空蝉零【呪術廻戦】 (ページ8)

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「玖吼理で外から索敵、私達は中から呪霊を探す」

「外の状況がわかるの?」

「案山子を通して視覚を共有することができるの。外で何かあれば玖吼理で対処できる」

そのような会話を交わしたのがつい先刻の事。
2人は建物内の2階フロアを歩いていた。

「あの…枸雅さん」

「Aでいいよ。皆そう呼んでる」

「じゃあ、Aさん」

恐る恐る乙骨は彼女に問いかける。
乙骨に名を呼ばれたAは「なに？」と聞き返した。

「その、玖吼理…って本当に神様なの?」

その乙骨の問いかけに、彼女は歩みを止めることなく少し歩幅を狭めて思案するように口を噤んだ。
やがてゆっくりと彼女は口を開き、「そうだよ」と乙骨の問いを肯定した。

「正確にはその抜け殻って言うのかな。うちの村…空守村っていうんだけど、そこで代々祀られているのが案山子なの。いつの頃からかはわからないけど、うんと昔から。正体は誰も知らない。扱い方が伝わっているだけ。車と同じようなものだよ。発明者や作り方を知らなくても運転はできるでしょう?」

「扱い方?」

「そう。選ばれた役職…"隻(せき)"っていうんだけど、それが案山子に魂を入れて操るの。呪力がないと案山子は動かないから、村の旧家の術式を受け継いだ呪術師が隻になる。私の家は昔から案山子で呪いを祓ってきた代々呪術師の家系なんだ」

淡々と彼女は乙骨の疑問に対し説明を行う。
彼女が玖吼理を「私の神様」と称したことはつまりそういうことだったのだ。
あの案山子は彼女達にとっては間違いなく神様なのだろう。
なんだか宗教染みているのだなと乙骨は思ったが何とも言い得て妙である。

会話をしているうちに2階も端まで探し切ってしまった。
2人は2階を歩いたその足で3階へと上がり、同じようなフロアに足を踏み入れた。

「呪霊の気配は、ないね。余程隠密が得意なのかな」

未だ件の呪霊は姿を現さない。
以前の小学校では何かしらがそこかしこに身を潜めていたというのに、ここには呪霊のじの字すら見当たらない。
低級の呪霊ほどよく群れると教えられたことを思い出し、つまり今回の呪霊が群れを成す必要もないほどの呪霊であることを悟った。

3階を通り過ぎ、4階に上ったところでAがその歩みを止めた。

「…ここかな」

同じように端から端まで扉が並ぶ4階フロア、この何処かに呪霊がいると彼女は言った。
慎重に足を進めるAの真剣な表情に、乙骨は無意識に拳を握り固唾を呑み込んだ。