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Aと自分は似ていると思う。
それは容姿や性格、はたまた技術とかそう言った話ではない。
境遇や周囲の環境、そう言った理不尽の枷がどうにも似ていると感じる。
似ているということは同じということではない。
比べれば全く違いもあるし同じものとして考えるにはどうにも不粋と言わざるを得ない。
無理に例を挙げるとするならば、自分は足枷をつけられ、Aは首輪を付けられているようなものだろう。
だから彼奴の感情を押し殺したような表情はどうしても好きじゃない。
それは彼奴が従順を着せられている証であると思うから。
彼奴の手は自由に空いているはずなのにその首輪を外そうともしない様相をありありと見てしまうから。
そして彼奴はついこの間、何にも代え難い唯一を奪われたのだそうだ。
玖吼理が自分の全てだった。
そう泣きながら言うAを見て、私はどうしようもなく「馬鹿だな」としか思えなかったのだ。
あんなものただお前をクソみたいに思い通り縛り付けてる道具に過ぎないというのに。
自ら首輪に縋って幸せを享受したがる装いだけは気持ち悪く吐き気がした。
初めから偽物の愛を与えられているということにも気づかずに、彼奴は自分の神様に縋るのだ。
なんだ、此奴には何も見えていないのか。
そんな疑問が頭を掠めた途端、無性に苛ついてきて、思わずAを殴ってしまった。
あの時の周囲の顔は今でも忘れられない。
殴られた本人は撃ち込まれた右ストレートに顔面を赤く腫れさせながら切れた唇から滲んだ血も拭わずにポカンと呆けた顔。
憂太とパンダは恐怖と驚愕が入り交じったように体を震わせ、Aに絶賛好意を寄せている棘は怒り心頭に私を責めたてながらもどこか清々しい表情をしていた。
恐らくは棘も似たような心境だったのだろうなと思う。
ただ彼奴は私なんかよりもずっと優しいから、素直に自分の気持ちを暴露できないし、文字通り割れ物を扱うようにAに接するのだ。
じれったいなと思う反面、それを眺めるのが最近の楽しみだとも言える。
それから私は何も理解していないようなAを連れて鍛錬場に行き、そこでもしこたま殴った。
鼻血を出し始めたところで流石に止められはしたもののいつまでも湿気た面をされていては困る。
お前は今まで私と何をしてきたのだと咎めるように問えば、Aは随分と驚いた顔をして、それから笑って私の顎を蹴り上げてきやがった。
ああそうだよ、それでこそ張り合いがあるだろ。なあ、A。
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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時