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自分よりも等級が上だったAはその実力から上層部のお気に入りだった。
毎日のように呪霊を相手にして、実力相当以上の任務に就けられることもしばしばあった。

そんな格上相手に怪我をして帰ってくることは一度や二度じゃない。
毎度のことAは笑いながら己の怪我を顧みることなく平気だと口にした。

頭から血を流して、腕を切りつけられて、片脚を引き摺って。

見ているこっちが痛いくらいだと口にすることもできず、自分は彼女の笑顔に酷く遣る瀬無さを感じながら医務室へと彼女を連れていく。

血を流しながら笑う彼女は好きじゃない。
けれどもそんな彼女に何も言えず、何の助けもできない自分自身に何より苛ついた。
Aは俺を優しい人と言ったけど、俺は自分を優しいと思ったことはなかった。

いつも彼女を医務室に送った後は自室に戻り手を洗う。
手に付いた血液は爪の間に入ると落としづらかった。

だから彼女が玖吼理を失って、等級が降格されたことを知った時、俺は不躾にも酷く安堵したのだ。
玖吼理というイレギュラーな存在があったからこそ、Aは任務に殉ずることを強いられた。
玖吼理を失い等級が下がったことで、上層部からのこれまでのような待遇は緩和され、怪我をする危険や頻度も減るだろう。

Aは二級術師となり、俺は準一級術師になった。

二級と準一級。

ずっと煩わしかった隔たりが、今では何よりも大切で誇らしい。
俺はやっと、彼女を守れる理由が出来た気がした。





(狗巻棘の葛藤)

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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時

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