・ ページ46
「二級降格と隻の解任ね…」
五条はつい先刻聞いたばかりの話を炙り蒸し返すように口にする。
というのも自分の生徒たちが件の彼女の様子がおかしく、ボロボロと感情を露呈する様を目撃したというのだから担任として確認はせざるを得ない。
彼らの話を聞いたその足で枸雅Aの部屋に赴き、彼女と共にいた真希に「余計なことは言うなよ、やっと落ち着いたんだから」と釘を刺されたのはあまりに信用がなさすぎるのではと思ってしまった。そんなことはさすがの僕でもしない。
まあそんなことがありつつも落ち着いた、というよりはどこか憔悴したAが先程五条が口にした内容の詳細を話したというわけだ。
その時の彼女の様子は如何せん異常と捉えても何らおかしくはない。
それほどまでに彼女は"玖吼理を失った"ことに関して動揺を露わにしていた。
「玖吼理は私の神様だったのに」
ぽつりと漏らした彼女の言葉が五条の頭を堂々巡りする。
"神様"
なんて随分な呼ばれ方をしているが、あんなものは五条からしてみればただの木偶人形に過ぎない。
だからこそ彼女の言う"神様"がどれほど異常であるかがよく解る。
言葉が悪いとは承知で、あんな言葉は陶酔という他ない。
枸雅Aのあれほどまでの案山子への執着はいったいどこから来ているというのか。
そこまで考えて、五条は先日のクリスマスイブ、百鬼夜行の出来事を思い出す。
五条が夏油を殺す直前、そう言えば奴はこんなことを言っていた。
「ああ、それと枸雅A…あの子には気をつけた方がいい」
「あの子、何か隠しているだろ。自覚しているのかは私の知るところではないけれど」
夏油はなんとAに日本三大妖怪の一つ、酒呑童子や大嶽丸と名を連ねる「化身玉藻前」をけしかけたのだと言った。
あまつさえそれを彼女は祓ったと、その時の五条はあまりに突拍子もなさ過ぎて思わず「は?」と聞き返してしまった。
何がどうして、一級の彼女が適うはずもない妖狐の化身なんぞを祓えたのか。
謎が謎を呼ぶ現状に五条は頭を抱える。
何故こうも自分の受け持ちには問題を抱えている生徒ばかりなのだろうか。
まあ、だからこそと言うわけでもないが、五条はAが玖吼理の隻を外されたことは結果良かったと思うのだ。
いくら絡繰とはいえ、心酔しきった信仰は何よりも厄介で危険なのだから。
彼女が神様に身を滅ぼしてしまうことが無きにしも非ずといった状況を五条は良しとしていなかった。
57人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時