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夏油は静かに口を開いた。
言い訳でもなんでもないただの本心が彼の口から綴られていく。


「…誰がなんと言おうと非術師(さるども)は嫌いだ。でも別に高専の連中まで憎かったわけじゃない」

「ただこの世界では私は心の底から笑えなかった」


自分のしてきたことが正しかったと言うつもりはない。
それでもこの世界が正しいとも夏油はどうしても思えなかった。
醜く腐りきった世界と人間を葬ることで、死んだ仲間を弔ったつもりになって、少しだけ心が軽かった。
家族達と過ごす日々に彼は少しだけ救われた気になったのだ。


「傑」


五条が徐に夏油の名を呼ぶ。
夏油は彼の口から紡がれた言葉に心底あっけにとられ、心底馬鹿馬鹿しく思った。
ああ、なんだ、結局のところ私もいつまでも悟と同じ思いだった。


「はっ」

「最期くらい呪いの言葉を吐けよ」


最後に彼は心の底から笑えたのだろうか。





――――――――――――――――――――――――





「おい憂太!!大丈夫か!?」

「高菜!!!」

「しっかりしろ憂太!!」


自分を忙しなく呼ぶ3つの声に乙骨は目を覚ます。
聞こえた声は同級生3人真希と狗巻とパンダの声。
乙骨はその瞬間に覚醒した頭と体を勢いよく起こした。


「皆怪我…真希さん、狗巻君…ああっ!!パンダ君腕治ってない!!」


起き抜けに喧しく声を上げる乙骨に3人は顔を見合わせて呆れたように笑う。
自分の方が十分怪我をしているくせして此奴は他人の心配ばかりするのだ。


「落ち着け、全員今の憂太より元気だ」

「俺の腕は二人と違って後でどうにでもなる。助けてくれてありがとうな」


真希とパンダの言葉を噛み締めるように乙骨は安堵と歓喜に打ち震える。
自分は何よりも大切で信頼する彼らを守ることができたのだ。
と、そこまで考えて乙骨は思い出したように3人に問いかける。


「ねえ、Aさんは…?」


乙骨の口からその名が出た時、その場にいた全員がズズズズと何かを引き摺る音を耳にした。
全員が勢いよくその方向を振り向く。

そこには右腕と制御系統の単眼を完全に破壊された玖吼理がいた。
飛行機能を失う寸前なのだろう。
玖吼理の胴体は地に触れ、その巨大な体躯を引き摺ってもなお稼働していた。


「A…?」


辛うじて繋がっている玖吼理の左腕には、全身が血に塗れたAが抱えられていた。

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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時

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