・ ページ39
吹き飛ばされたAは痛む体を無理矢理に起こす。
しかし込み上げる吐血は抑えられず、反射的に咳き込むように血を吐き出した。
だらだらと口から流れる血を拭うこともせず、Aは向かい来る呪霊の攻撃を玖吼理で防ぐ。
防戦一方、小競り合いの繰り返し。
玖吼理で防ぎきれずに受ける攻撃は着実にAを消耗させていた。
その時、玖吼理の右腕が千切られるように破壊される。
「玖吼理…!!」
ドシャッと地面を転がる玖吼理の右腕。
ナイフはもう使えない。
それでもまだ単眼の光線は残っている。
少しでも消耗させなければとAは痛みで意識を無理矢理に保ちながら一直線に玖吼理の光線を放った。
直撃した翡翠の光に玉藻前は地面に落ちる。
「…っあああ!!」
祓えたかと思われた瞬間、一瞬のうちに目の前に迫った玉藻前の攻撃がAの脇腹を食い破るように抉る。
思わず崩れ落ちるようにAは地面に膝をついた。
そして一瞬の動揺から生まれた隙に玉藻前の攻撃が玖吼理の単眼を貫く。
翡翠の輝きが失われた眼で玖吼理は地面に落ちた。
案山子の単眼は制御系統を担う謂わば心臓部。
そこを破壊されれば隻の思念はもう案山子には届かず、隻の意思で案山子を動かすことはできない。
もう抗う気力も残っていないAの右腕と左脚を掴み上げる呪霊の手に徐々に力がこもる。
「っあ"、ぐ」
いとも容易くその細い腕と脚は玉藻前によって握りつぶされた。
あまりの痛みに叫ぶこともできず、呼吸が詰まる。
「っ…は、ぁ、あ」
意識が朦朧とする、息ができない、玖吼理ももう動かない。
そうだ、憂太君は無事かな
真希も高専に残っていたはずだけど、大丈夫かな
棘君もパンダ君も、無理、してないといいな
みんなにあいたい
走馬灯のように友人達の顔が駆け巡る。
ふとAの目にボロボロに破壊された玖吼理が目に入る。
右腕は千切れ、左腕もボロボロでかろうじて繋がっている。
単眼は翡翠の輝きを失くして貫かれるように大破していた。
私の神様
しかしもうAの意志で玖吼理が動くことはない。
でも、あの日彼女は自分の神様と約束をしたのだ。
離れないように、迷わないように。
そっと手を握って彼女は願い、祈った。
「ずっと一緒にいようね」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 57人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にる | 作成日時：2021年2月10日 1時
