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「おい、オマエ呪われてるぞ」


逸早く真希が間合いを詰め、乙骨の真横の黒板に大刀を突き立てる。
両隣には戦闘態勢をとっている狗巻とパンダ。
彼らから一番遠くにいるAでさえ、彼から警戒を外すことはできなかった。
一斉に4人からの突き刺すような視線に冷や汗をかきながら、乙骨は引き攣った声を漏らした。


「ここは呪いを学ぶ場だ。呪われてる奴がくる所じゃねーよ」


日本国内での怪死者・行方不明者は年平均10,000人を超える。
そのほとんどが人の肉体から抜け出した負の感情、"呪い"の被害だ。
中には呪詛師による悪質な事案もある。
呪いに対抗できるのは同じ呪いだけ。
ここは呪いを祓うために呪いを学ぶ『都立呪術高等専門学校』だ。

窓を背に凭れながら五条は乙骨に高専と呪術の説明を施す。
…今?
どうやら事前に説明をせずに連れてきたようで、彼自身も何かを言いたげに驚愕の表情で五条を見る。
教師として如何なものだろうか。


「あっ、早く離れた方がいいよ」


ふと思い出したように五条が言う。
瞬間、一年生5人の中の誰よりも早くAがソレに気がついた。


「皆離れて!!」


乙骨の背後、黒板からすり抜けたその両腕。
彼のすぐ近くにいた3人がそれに気がついた時には彼女の手は眼前に迫っていた。


「ゆゔだヺををを」

「待って!!里香ちゃん!!」

「 虐めるな 」


彼女の手が3人に触れる。と思われたその瞬間。
轟音が教室内に響き渡り、室内にもかかわらず突風が吹き荒れる。
あまりの衝撃に乙骨は瞼をきつく閉じ、両腕で顔を覆った。

暫くしてそっと目を開いた彼の視界を奪ったのは、翡翠の単眼。
何処までも透き通っていて美しいと思う反面、その先の虚ろを垣間見て思わず息を潜めてしまう。

里香はこの翡翠の単眼をもつ乳白色の巨大なこけしのような人形に腕を押さえつけられ、身動きを封じられていた。
乙骨は唖然とその光景を見た。
あの誰にも抑えることのできなかった彼女が封じられている。
その事実は彼にこれほどまでにない衝撃を与えた。


「お願い、やめて」


見えない彼女の声が聞こえる。
控えめなのに鈴のように凛とした声。


「傷つけるつもりはないの。だから……お願い」


懇願しているようで芯のある声に、姿が見えないにも関わらず彼女の真剣な表情が見えた気がした。
暫く抵抗していた里香が諦めたかのようにスゥッと消えていく。
彼の目の前にはこけしのような巨体と、先刻の声の彼女の姿があった。

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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時

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