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夏油は大胆不敵に笑う顔を崩さないまま、高らかに呪術界との全面戦争を宣言した。
その確固たる自信がどこからくるのか皆目見当がつかないだけに恐ろしい。
いくらかき集めようとも術師は一個小隊程のものだろうに。
そう考えてこれから自分たちは互いに命を奪い合うのだと緊張感に奮えながら実感した。
「ところで、君はいつまで姿を見せないつもりかな」
そう夏油は冷やかすように自身の背後、誰もいないはずの方向に向けて呼びかける。
怪訝な表情で見るもそこに人影はない。
誰に話しかけているのかと眉を顰めたその時。
「夏油はわかってないな、こういうのはサプライズが肝心なのに」
その瞬間、Aは呼吸を忘れてしまうほどに驚愕した。
Aだけではない。その場にいた誰もが眼球が零れ落ちてしまうほどに目を見張る。
身体がまるで金縛りにあったかのように動かない。
知らない表情、知らない声で、知らない"彼"は言った。
「やあ、A」
「わたし、と……同じ、顔……?」
髪型も、体格も、声も違う。
けれども顔の造形だけは鏡写しにしたように寸分の狂いなく繊細に似通っていた。
似ているなんて言葉では表現できない、まさしく生き写しのごとく。
「ふふ、ずーっとこの日を心待ちにしてたんだ。やっと会えて嬉しいよ」
親しげに、愛おしげに、蕩けるような笑みを浮かべながら目の前の彼は言った。
何故そんな目で自分を見るのか、何故自分を知っているかのような振る舞いをするのか、何故自分と同じ顔をしているのか、何故、どうして。
貴方は、誰。
頭が働かない。
言いたいこと、言わなければいけないことがダムが決壊したように雪崩れ込む。
呼吸が喉につっかえて声にならない。
「そうだとは思っていたけれど、やっぱり聞いてないんだね。僕の事、皆して君に隠していたわけだ」
「皆…?」
「枸雅の連中のことだよ。知らないはずないよね。君を散々卑しんで蔑んで、仕舞には隻なんて役職に縛り付けて今もなお虐げているクソな奴ら」
淡々と感情のこもらない声で平気で罵倒する彼に思わず息を呑む。
「…貴方は、誰……?」
情けなく震える声を声帯を酷使して無理矢理振り絞る。
目の前の彼は自分と同じ顔で、自分とは似ても似つかない表情をして笑った。
「僕は君、君は僕。同じ血を分けた片割れ同士。ちょうど案山子と隻のように、つがいのもの、"隻"ってわけさ」
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作者名：にる | 作成日時：2021年2月10日 1時
