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「はじめまして、乙骨君。私は夏油傑」

「えっ、あっ、はじめまして」


それはたった一瞬。
瞬きをした時にはすでにその男は乙骨の手を取っていた。

ぞくりと身の毛がよだつ。
今までの油断が数秒前の自分を殺す。
今、目の前にいるのは自分たちを喰らわんとする獣そのもの。
牙は既に突き立てられていた。


「そして君が、枸雅Aか」


なんで、言葉は出なかった。
好奇に満ちた目。何故彼がそんな目で自分を見るのかAにはわからなかったが、見知らぬ男に存在を知られていることに背筋がぞっとする。
彼が誰なのか、何故乙骨やAの名を知っているのか、尽きない疑心が思考を蝕む。

自分を警戒する彼らに目もくれず乙骨の手を未だ握りながら夏油は淡々と話し始めた。


「乙骨君、君はとても素晴らしい力を持っているね。私はね、大いなる力は大いなる目的のために使うべきだと考える。今の世界に疑問はないかい?」

「?」

「一般社会の秩序を守るため呪術師が暗躍する世界さ」

「つまりね、強者が弱者に適応する矛盾が成立してしまっているんだ。なんって嘆かわしい!!」


次第に話に熱が籠っていく夏油とは対照的に、乙骨は話の流れをうまく理解できないように声を漏らした。
理解?そんなものはAだって、真希達ですら出来ていない。
夏油の言うことは彼らの常識の範疇からはどこか外れている。

乙骨の反応など意に介さず、夏油は乙骨の肩を抱きながら力説を繰り広げる。


「万物の霊長が自らの進化の歩みを止めてるわけさ。ナンセンス!!そろそろ人類も生存戦略を見直すべきだよ。だからね、君にも手伝ってほしいんだ」

「…?何をですか?」


途端に冷静さを取り戻しながらも芯の通った声で語る夏油は、乙骨に向けて協力を仰ぐ。
当然ながら話の趣旨を理解できない乙骨は聞き返した。


「非術師を皆殺しにして呪術師だけの世界を作るんだ」


酷く冷めた音で鼓膜を通った夏油の言葉に、全員が呆然と目を剥く。

何を言っているのか理解が追い付かない。
夏油の言葉は明らかに人道を外れた行いを言っている。
道徳的であれとは言わないにしても、彼の情緒を疑ってしまうほどには彼の発言は異常をきたしていた。

・→←5話 銃口



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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時

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