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誰も傷つけたくなかった。
誰かを殺す前に自分が死んでしまいたかった。
ゆるゆるとぬるま湯で浸されたような息苦しさの中に雪崩れ込んだ真水のような彼の一言が貫くように僕の核心を暴いた。
そうだ、誰も傷つけたくないなどと抜かしておきながら
僕は一人が怖かった。
――――――――――――――――――――――――
「転校生を紹介しやす!!!テンション上げてみんな!!!」
透き通るような白髪に広く目元を覆う包帯が特徴的な高身長の男性の声が教室内に響き渡る。
彼は予鈴が鳴った8分後に教室の襖を勢いよく豪快に開いたかと思えば、先刻のような台詞を高らかに轟いた。
ハイテンションな大人を傍目に無言を貫く生徒4名に彼は若干寂しげに「上げてよ」と吐露した。
「随分尖ったやつらしいじゃん。そんな奴のために空気作りなんてごめんだね」
「しゃけ」
「……」
クラスメイトの険悪さに気圧されるAもまた、転校生の存在にはあまり良い印象ではなかった。
そもそも同級生4名をロッカーにおにぎりのごとく詰めてしまった彼のイメージはAの中で完全に怖い人と定着してしまっている。
そしてまた今日これから自分達も彼の同級生となる。
彼を抜けば丁度A達も4人だ。
自分の背後の小さなロッカーに4人まとめて詰められてしまうのも時間の問題ということだろうか。
そんな簡単に詰めさせてくれるほど自分の友人は優しくも弱くもないけれど。
「ま、いっか。入っといでー!!」
転校生を歓迎するどころか追い返すかのような雰囲気の彼らも十分尖っていると思いながら、五条は廊下に待たせていた転校生――乙骨憂太を呼んだ。
五条の呼び声から間もなく、ガラッと襖が開かれる。
彼は、"ソレ"は、4人を警戒させるのに十分だった。
異質、凶悪、奇異、何とも形容しがたい畏怖の権化。
――呪いの女王 特級過呪怨霊 祈本里香
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作者名：にる | 作成日時：2021年2月10日 1時
