4話 心臓を穿つ ページ19
狗巻と乙骨の合同任務後、五条と補助監督である伊地知は高専内で顔を合わせていた。
2人の間には暗く重苦しい空気が流れ、そんな中伊地知は五条に頭を下げ謝罪の言葉を口にした。
「何者かが私の"帳"の上から二重に"帳"を降ろしていました。加えて予定にない準一級レベルの呪いの発生。全ては私の不徳の致すところ、なんなりと処分を」
「いやいい、相手が悪すぎた」
五条は伊地知の言葉を遮るように言葉を被せる。
五条には彼の報告に心当たりがあった。
補助監督でさえ感知できない帳と予定にない呪霊の出現。
考えれば考えるほど、五条はよく見知った人物を想起する。
自分の青春も思い出も、全てあの日に置いてきたというのに。
酷く残暑の厳しい日で、頭で考える全てがどろどろに溶けていくようだったあの日に。
「夏油傑」
「4人の特級が一人。百を超える一般人を呪殺し呪術高専を追放された、最悪の呪詛師だよ」
かつての自らの親友を五条は未だ忘れられないままでいる。
――――――――――――――――――――――――
「Aさぁ…最近何か変わったことなかった?」
なんてことのない夕暮れ、任務報告に足を運んだAに五条は何の気なしといった様子で問いかけた。
あまりに急な問いかけに咄嗟に出す答えもなく、質問の意図を確認する他なく聞き返す。
「…と言いますと」
「任務中未確認の呪霊が出現したり、身に覚えのない帳が降ろされていたり…ある?」
「いえ、そんなことがあったらすぐに報告しますよ」
「…だよねー!」
そりゃそうだ、と言うようにいつも通りおちゃらけて「変なこと聞いてごめんね」と笑う五条にAはますます彼の真意が読めない。
そのような事例があったことは確かだろうが、何のため、誰が、という情報を五条は口にしない。
未だ調査中であるということなのか。
変わったことと聞かれ、Aはふとそう言えばと思い返す。
あの日、乙骨と共に任務に赴いた際に妙な気配を感じたことを思い出したのだ。
まるで本能が覚えるように全身で感じたあの気配。
あれは紛れもなく"隻"であった。
たった一瞬だったにしてもAがこれだけ身に受けたというのに同行していた五条が察することもないというのもおかしい。
加えてあの日以来特段変わったこともなく、いつも通りの日常を過ごしている。
やはり単なる勘違い…。
どこか拭いきれない違和感を抱えながらも無理矢理飲み込むようにAは自分を納得させた。
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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時