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任務を終え高専に戻ろうと車に向かおうとした時の事だった。
「…?」
背後から妙な気配を感じたAが振り返る。
しかし全く人の姿などなく、ついさっき感じたはずの気配すらぱったりと読めなくなってしまった。
「Aさん、どうしたの?」
「え…あ、なんでもない、今行くね」
今の気配、間違いじゃなければ…
だがあんな気配は村でも感じたことがなかった。
しかしそんなことよりも、あの感じ。
酷く、懐かしい感覚がした。
何故だかとても胸の奥がざわついた。
気の所為かとも思いながら乙骨に名を呼ばれた彼女は踵を返す。
彼女を見つめる人影が気の所為などではないとも気づかずに。
――――――――――――――――――――――――
「気づいた?この距離で」
「いや、場所までは割れてない。気配に気づいただけだね。"隻同士"はなんとなくお互いの気配くらいならわかるものだよ」
2人の人影が繁華街のビルの屋上に立っていた。
その目は遠く離れた彼女達の居る方向を向いている。
見えているのかいないのかなどという疑問はこの場では些細なことだ。
「あれが君のお気に入りか。存外可愛らしいじゃないか」
「…約束、忘れてないよね?」
「彼女には手を出さない、だろ?もちろん覚えているとも。出来ることなら彼女にも協力してもらいたいものだがね」
袈裟に身を包んだ一人の男がそう言った途端、もう一人の少年の目が鋭く男を貫いた。
男は冗談だとでもいうように笑みを浮かべ、「怖い怖い」と言いながら両手を上げて降参のポーズをとる。
「本当、君は彼女にご執心だね」
少年はフンっと鼻を鳴らし男に向けていた目を彼女の居た方向へと移した。
上空に吹く風が彼らの髪を攫う。
「早く会いたいよ、A」
そう言い目を細めて笑みを浮かべた少年は、彼の口から出た名の少女とよく似ていた。
そう、似ていた。
まるで生き写しであるかのように。
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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時