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この場所はかつて多くの入居者のいた集合住宅で、近くには公園があったらしい。
多くの児童が遊ぶ公園で突然、例の少女は姿を消した。
彼女は何ヵ月も何年も見つからなかった。
シングルマザーだった母親は自宅であった集合住宅の一室で自らの首を紐で吊り命を絶ち、娘を失った母親の無念は呪いに昇華し呪霊となって住民を襲っていったのだそうだ。
行方不明者が続出したこの集合住宅は事故物件として借り手もなくなり、やがて荒廃し足を踏み入れた人を喰らう心霊スポットに成り果てた。
少女はずっと探していたのだ。自分の家を。
死してなお呪霊と化さず、誰を呪うこともなく。
ただ純粋に母親のもとに帰りたかった。
「おかえり、どうだった?」
「資料の通りでした。この建物に巣食っていた呪霊は、かつてここの一室で自害した母親」
「じゃあ、あの子は…」
「ずっと昔に行方不明だった彼女の子供の霊。現世に留まっていたみたいだけど、ちゃんと成仏できたよ。もう気配は感じない」
「そっか…」
Aは初めから気づいていたのだ。
あの少女がもうすでに生きていないことを。
Aから聞いた話だが、あの時呪霊が飛び出してきた部屋が彼女達の自宅だったのだそうだ。
ならば、そうか。玖吼理が切ったあの紐がいつまでも母親を怨嗟に縛り付けていたのだ。
あの紐は母親が首を吊って自害した際に使った紐だった。
「勉強になった?Aの戦い方は」
「はい、とても」
彼女はどこまでも優しくて、呪いにひたすら純粋に向き合う人だった。
そのひたむきさは乙骨の呪いに対する認識を大きく改めた。
彼女の言う通り呪いが人の想いなのだとしたら、彼の中の里香も、彼自身の強い想いなのかもしれない。
失いたくなかった幸せを彼は自らの
彼女にもらった婚約指輪を見つめ、乙骨は彼女との思い出を反芻した。
幸せだったあの日々を。
失ってしまった幸せを。
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作者名:にる | 作成日時:2021年2月10日 1時