【呪術廻戦】乙骨様の守り刀【刀剣乱舞】 (ページ4)

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黎明ページ4

すうっ…と深く息を吸い込む。
土の匂い、風の匂い、人の匂い。どれも長い年月の中静かに眠るだけだったAには初めてのもの。
次いで、閉じていた瞼を上げた。
色付いていく景色の中で一際輝いて見えたのは風に揺れる黒髪と、目を丸くしてAを見詰める主の姿だった。

心が躍る。やっと会えたのだ。
Aは憂太が里香の為に必死に稽古していたのを知っている。刀なんて握ったことも無いであろう豆一つない手が自分をしっかりと握ってくれた感触を覚えている。

戦いの中一気に力を込められすぎて耐えられなかった未熟な己を、貶すでもなく、見捨てるでもなく、大事に一かけらも残さず拾ってくれた優しい主様。

『ずっと…ずっと、この時を待ち侘びておりました。先の戦では、未熟故に最後の時まで共にあれなかった事、誠に申し訳御座いませんでした…』
「ええっ！？ちょっ…大丈夫だから土下座なんてやめて…っていうか君誰！？」

「なにあれウケる」
「シュールだな」
「しゃけ」

呪霊かと構えた生徒達の数歩先、それはそれは美しい所作でジャパニーズ土下座を披露した少女の前で憂太がおろおろと情けなく両手を彷徨わせている姿は、はたから見ると何とも間抜けな光景である。

顔を上げるよう憂太が膝を着いて語り掛けてはいるが、少女の意思は固くピクリとも顔を上げる様子はなかった。
おいどうすんだ。何が起こってんだよ何とかしろよ教師だろ。
そんな生徒達からの視線を一身に浴び、素知らぬ顔でその場を後にしようとしていた五条は「はぁ…」と深い溜息とともに二人へと渋々足を進めた。

「土下座するのは良いんだけどさ。いいの？君の大事な主様が地面に膝着けてる訳だけど」
『…！？』
「今気付いた、みたいな顔してんのウケるね」

まるでこの世の終わりかの如く血の気の引いた顔で憂太を立ち上がらせる少女の姿は、まだ高校に上がったばかりの彼らよりも幼い印象を受けた。
呪霊でもないのにどこか浮世離れした雰囲気のせいか、人間味を感じないのは些か気味が悪いな…。
一切情報のない彼女には聞かなくてはならない事が山ほどあるのだが、一先ず生徒全員の怪我を硝子に見せなくてはいけないだろう。

「積もる話もあるだろーけど、とりあえず皆の怪我治しに行くからはい撤収！」
「えっと、先生。この子は…？」
「気配からして呪霊ではなさそうだけど、一応憂太手掴んどいてね～」
「ええ！？」
『…不束者ですが』
「嫁入りみたいになってんぞ」
「しゃけしゃけ」