28 ページ28
薄暗い路地に並んだ車の中の一台がジョングクの車だった。
そもそもが大きい車なのだろうけれど、普通乗用車の並びだからか一際大きく見えた。
ジョングクの背中みたいだと思った。
「どうぞ」
言葉通りご丁寧にドアを開けただけではなく、良いところの運転手みたいに私を車内へと促す手つきをして見せる。
思わず'どうも'と頭を下げて少し車高のある車内に乗り込む。
香水か、車内の香りか。
落ち着かない私にエンジンの振動が伝わる。
ジョングクは手に持ったままだったバケットハットを適当に後部座席に投げると'寒くない？'と何かを調節しながら言った。
だから'大丈夫'と返事をしてマフラーを外して膝の上にバッグと一緒に置いておく。
それから私がシートベルトを締めてジョングクが私の家の住所をナビに入力して。
'じゃあ'というジョングクの言葉と共に車がゆっくりと動き出す。
車内の時計はもう20時を過ぎていた。
赤信号のタイミングでジョングクが'そういえば'と口を開きながらそれまで流していた音楽のボリュームを少し下げる。
「こないだ言い忘れた事があって」
そう言いつつ鼻を軽く擦ってから、一瞬だけ私を見てまた信号に目を戻す。
「髪、似合ってるねって、」
'すぐ言わないと意味ないよね'と苦笑いするジョングクのそれは私には聞こえなかった。
驚いて。
面食らったさっきのおじさんみたいに。
美容室に行ったのは確かに比較的最近の出来事だけれども、
ジョングクにそれをどうこう言って貰えるとも、言ってほしいとも思っていなかった。
気付くかどうかも考えてなかった。
ジョングクを馬鹿にしてるとかじゃなくて、私が時間を見つけてその合間に美容室に行ったのはただの自己満足だから。
「…いや、そんな事ないよ」
だから褒め言葉を受け止めきれず、後者の言葉にだけ返事を返す。
それがジョングクに伝わったかどうかは分からない。
ジョングクの綺麗過ぎる横顔ではなく、赤から青に変わる信号を見ていたから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 355人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かむ(プロフ) - aishinさん» 初めまして。いえ、こちらこそ読んで頂きありがとうございます。良かったらまた何度でも見に来てくださいねㅎㅎ (2月17日 21時) (
レス) id: 40531361f3 (このIDを非表示/違反報告)
aishin(プロフ) - かむさんはじめまして 素敵なお話ありがとうございます。一気に読みました。ジョングクの不器用で優しいそして何より一途な魅力全開の作品です💕これからも応援してます (2月17日 12時) (レス) @page24 id: 2f5b0c03f1 (このIDを非表示/違反報告)
かむ - senra1003さん» ありがとうございます(；ω；) (2月12日 19時) (レス) id: 40531361f3 (このIDを非表示/違反報告)
senra1003(プロフ) - 最高です（т-т） (2月12日 1時) (レス) @page47 id: bf42e69a0b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かむ
| 作成日時：2024年2月7日 22時
