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夢は寝ている時にだけ見るものじゃない。
そう気づいた時にはもう戻れなかった。
『…あれ、誕生日過ぎてる』
何もしないまま23歳最後の日が終わってしまったことを知ったのは、退勤する前にふと見たカレンダーの日付が私の誕生日の翌日だったからだった。
最近は忙しくて日付を気にする余裕もなく、自分の誕生日が近づいていることに気付かなかったのだ。
携帯には離れて暮らす両親や同僚、学生時代の友人などからちらほらとお祝いメッセージが届いている。
しかし、そこに私が一番祝ってほしい人の名前はなかった。
現実から目を逸らすように携帯をポケットにしまい、残業終わりの重たい体を引きずって玄関の扉を開ける。
そして、そこに見覚えのある靴を見つけた私は目を見開いた。
彼のものだ。彼が来てくれた。
それだけで先ほどの憂鬱な気分が嘘のように晴れて、嬉しさのあまりリビングに向かう足取りが軽くなる。
そして、ソファーでくつろぐ彼を見た瞬間、私の心にはなんとも言えない愛しさが溢れた。
『…テヒョン!』
私の声に顔を上げたテヒョン。
目にかかる前髪を気だるげにかき分ける仕草に胸が高鳴った。
毎度のことだけれど、テヒョンの整った顔だちは息を呑むほど美しい。
そのせいもあって、未だに彼が私の彼氏であるということが信じられず、同時に怖くもあった。
いつか私は捨てられてしまうんじゃないか、置いていかれてしまうんじゃないかって。
「待ちくたびれたよ〜」
こちらに向かって両手を伸ばすテヒョンに慌てて駆け寄る。
『ごめんね、残業させられてて…』
テヒョンは近寄ってきた私の首の後ろに手を回すと、思いっきり自分の方へ引き寄せた。
途端に彼の匂いが近くなって、私の鼻腔をくすぐる。
テヒョンの香水の香りに混じって感じるのは、少しのお酒の香りと、女物の香水の香り。
『……』
分かっている。テヒョンの相手が私だけじゃないことくらい。
彼を独り占めできるほど魅力に長けているわけでもない。
それでもこうやって胸が痛んでしまうのは、私の中に燻るなけなしの独占欲なのだろうか。
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のあ - とてもおもしろいです、続き待ってます! (2019年9月11日 7時) (レス) id: 87b0b31a0f (このIDを非表示/違反報告)
ミア - すごく面白い展開になってて続きが楽しみです! これからも読ませていただきます!! (2019年7月25日 17時) (レス) id: 73144b7ec3 (このIDを非表示/違反報告)
ミア - とてもお気に入りです!! 迷惑かもしれませんが続きお願いします! (2019年7月20日 19時) (レス) id: 73144b7ec3 (このIDを非表示/違反報告)
たまたま - 三角関係ぽい小説、今まであまり好きじゃなかったけど、このお話は凄く続きが気になります!更新頑張ってください! (2019年7月17日 21時) (レス) id: 11b0bd599c (このIDを非表示/違反報告)
のあ - 主人公ちゃん、自惚れちゃっていいんですよね!!!!!?テヒョン、、頑張れ!! (2019年7月17日 8時) (レス) id: d2b1c04faa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kasu | 作成日時:2019年6月30日 17時