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カフェに群がる人の中を抜けた丁度その時だ。
「全然会わなかったけど、元気だった?」
ジミンに呼び止められた。
白いオーバーサイズのTシャツに黒いパンツ姿。
前髪が少し伸びた印象。
頭からさっぱり抜け落ちてほぼ忘れていた存在がまた唐突に現れて、しかももう何度も会った友達の様な口ぶり。
コーヒーの匂いが充満しているここでも距離が近いジミンの香水の柑橘系が強く勝る。
ジミンに悟られない様に僅かにだけ身を引いて距離を取る。
「お…久しぶりです。ジミンさんこそ、元気そうで」
私は勿論敬語だ。
'うん'と頷いたジミンは目を細めて柔らかい表情。
「あんまり会えないから距離も縮まらないよね、せっかく同い年なのに」
表情に似つかわしくない突拍子もない言葉を残して'待ってて'と言うと人混みをかき分けカフェのカウンターに消えて行った。
"待ってて"と言われてしまったので両手にコーヒーを持ったまま中途半端な場所に立ち尽くす邪魔な人と化す。
私を避ける人に小さく'すみません'と言って出来るだけ通路の端に移動した。
人混みから出て来たジミンはスタッフの誰かと声を出して笑い合った後で'お待たせ'と私を見て言った。
非現実的だ。
関わらなかったはずの人物と関わる時間が増えていく。
自分の意思とは関係なく。
「二個持ってるの不便でしょ?これ貰ってきたから、使って」
「へ?あっ…えぇわざわざ、ありがとうございます」
ジミンは自分の分のコーヒーと私に渡す為の使い捨てホルダーを持っていた。
状況に動揺して挙動不審な返答になってしまった事が気恥ずかしいやら情けないやら。
「普通二個を一人で持ってるの見たなら気利かせて入れてくれればいいのに」
隣を歩くジミンが愚痴をこぼした。
横顔を見ると唇がまるで鳥の嘴のように突出していて可愛いらしいチャームポイントだなと思った。
勝手にジミンの横顔の感想など考えていたからか、ジミンが'ねぇ'とこっちを向いた時の事など準備していなかった。
「"ジミンさん"なんて呼ばなくていいよ、ジミニ、で」
少しだけ高い位置から私を見下ろすジミンが自身を指差して言う。
ジミンの黒い瞳の中に戸惑う私が映っているのが本当に非現実的だ。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年2月14日 10時