月に叢雲花に風 (ページ6)

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直接関わらない相手の事を考えている時間があるならその分自分のやるべき事を覚えるのが賢明だ。
私に割り振られた仕事は年齢経験関係なくしっかり一人分ある。
信じてもらえている証だ。

「どう？終わりそう？」

「いやぁ、、ちょっ、ともう少し」

コートを羽織る先輩は誰が見ても退勤の支度だ。
でも'手伝う事ある？'と聞いてくれてその優しさに自分の仕事を終わらせられなかった事が情けなくなる。

「、大丈夫です！あともう少しなんで、遅くても7時には帰ります」

手伝わせるなんて無理。
終わりが見えない訳じゃない。
一瞬だけ迷った様子を見せた先輩だったが'頑張って'と言ってバッグを手にした。

それからお互いに'お疲れ様でした'という同僚らしいお決まりの挨拶を交わすと先輩は颯爽と部署から出て行った。

韓国語で仕事をする事が苦なのではない。
ただ単に私の要領の悪さだ。
それでも誰かに咎められたりしていないのは、先輩のサポートもあり遅いながらもミスのない仕事をこなしているからだと思う。

正規採用されたからにはもう少し自分のペース配分と仕事スキルを上げなければ。
それが一番の課題。
そんなだから何とか終わらせてデスクの隅の携帯の時計を見たら18時半過ぎていた。

先輩に宣言した時間よりは早く終わったから良しとしなければ。

疎らに残る他のスタッフに頭を下げて挨拶をしながら私もやっと退勤できる。

エレベーターを待つ間夕飯のメニューを考える。
確か戸棚の中にカップラーメンが入っていた気がーー

「あ、」

ラーメン以外の候補を携帯で検索していて前を見ていなかった。
たった今声を発した人物の'수고하셨어요(スゴハショッソヨ)(お疲れ様でした)'がエレベーターの狭い空間に響き私は目を疑った。

今日昼間見た時とは違いラフな姿のジミンが昼間と同じ笑顔で"閉"のボタンを押したところで、背後のドアが大した音も立たずにゆっくり閉じた。