月に叢雲花に風 (ページ50)

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「…だから言ったじゃん」

ジョングクのその声が今までで一番近い場所で聞こえた。
ぎゅっとジョングクの腕に力がこもったのが分かって、流石に少し動揺した。

なんて言おうか迷ってる間にジョングクの腕が離れて私の腕を引っ張り上げながら立ち上がった。
私は"立ち上がらされた"が正しいけど。

立ち上がったと同時にジョングクが少し変わったくしゃみを一回。
そしてから呆然としている私の手を強引に握って

「えぇ？手冷た、」

怪訝な顔をしてそう言うと自分のアウターのポケットにそのまま突っ込んだ。

自分の手が冷たい事くらい分かってる。
いや、手が冷たいとか鼻が赤いとかそんな事考えてもなかったのが本音だ。

冷たいなら離せばいいのに。
そう思ったけれど言わなかった。
今のジョングクの存在が大きいから。
ジョングクが来なかったらまた雪が降って来ても、どれだけ身体が冷え切っても、話を聞いてしまったあの場所から動けなかった。

屋上庭園からドアを開けて社内に入ってもジョングクは手を離さなかった。

「ジョングガ、ちょっと」

ずんずんと大股で歩くジョングクを止める。
通路のど真ん中。
辺りには勿論誰も見当たらない。
が、さっき屋上庭園で聞いた声の主のように他の誰かがいる可能性がある。

'何？'とジョングクが私の手を掴んでいない方の手で被っていたフードを脱いだ。

「、いや、他に人、いるかもしれないから、これ、見つかったらまずいんじゃない、かな？」

こんな事を言う私が今一番気まずい。
'これ'と指差したのはジョングクのポケットの中で繋がれた私達の手の事だ。

変な意味はない。
そう分かってはいるけれど私達の気持ちはさておき他の人がどう見るかなんて分からない。
それは、ジミンも－－－だ。

「아니(アニ)(別に)」

ジョングクの明瞭な声が言った。

「상관없어 나는(サングァンオプソナヌン)(構わないよ、俺は」

何が構わないのか。
ジミンの様に彼女がいないから？
今人生でダントツに動きの鈍い私の頭ではジョングクの表情と言葉からは読み取れる物がなかった。

ただ構わないと言った言葉通り手は離してくれそうもなくて、いつの間にか汗ばむ程手が温かくなっていった。