月に叢雲花に風 (ページ49)

今日:141 hit、昨日:158 hit、合計:81,635 hit

49 ページ49

もう遅い、本当に。
そして私は馬鹿だ。
大馬鹿者だ。
"好きにならないように気をつけて"だけじゃなかった。
"彼女がいるから気をつけて"だったんだ。

じゃあジミンの今までのあれは何？
ジミンの全部の記憶がバラバラに割れて崩れ落ちる感覚に耐えられずその場でしゃがみ込んだ。

寒さも感じない。
見知らぬ誰かの電話の声も聞こえない。
ただ溶けかけの雪が屋上の地面を濡らしているその様を見ているだけ。

彼女は誰？じゃない。
押し寄せるのはただ一つ。

私は何？

「ヌナ！」

大きな声が頭上から降って来て反射的に見上げる。

「やっぱ…ここだと思った、ジミニヒョンに聞いたら戻ったって言うのに、いないから、はぁ…捜したじゃん…」

ジョングクの言葉が途切れ途切れだ。
眉を顰めて肩で息をしていて走って来たのだと知る。
部屋にいなかったのはジョングギの方じゃん、そう思ったけど声には出せなかった。

でもどうした訳かジョングクにはそれが伝わった様で

「、まぁ…俺も部屋にいなかったけど、ちょっと、トレーニング室に行ってて、ごめん」

とすっぽりと被ったフード越しに頭を掻いて言った。

それから未だに蹲ったままの私と同じ目線にしゃがんだジョングクはハァと息を吐いて呼吸を整えた。

「何かあった？顔に書いてあるって」

こういう時のジョングクは私をしっかり見る。
濁りも澱みもない目。
"顔に書いてある"って本当にジョングクには見えてるのかもしれない。

その目に私の顔が映っている。
キスに溺れて左右の区別もつかない表情じゃなくて、今にも泣き出しそうな表情。

「ジョングガ」

名前を呼ぶと'ん？'とジョングクのその声色が柔らかくてまた自分の愚かさに嫌気がさす。

「…私何もなかったなんて嘘ついた。本当はキスした、それで好きになった、でもさっき知った」

まるで文章になってない言葉なのにジョングクは黙って聞いている。

「、ジミニに彼女がいるって、さっき…聞いちゃった…」

泣きそうな表情なのに不思議と涙は出ない。
また雪が散らつき始めて私の頬に一つ落ちて頬を伝った。
私の代わりに空が泣いてるみたいだ。

ジョングクの大きな瞳が揺れた後、気付けば私はジョングクの腕の中にいた。