月に叢雲花に風 (ページ48)

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ジョングクの部屋を出る時時計なんて見てなかった。
それに私の携帯、ジョングクの部屋だ。

「ジョン…グガ…ー？」

記憶を頼りにたどり着いて開けたのはジョングクの部屋で正解だったのだれけど。

「あれ、いない…」

本人の姿がなかった。
気の抜けた私の独り言が持ち主のいない部屋に響いてすぐ消えた。

それでもさっきピアスを開ける為に使った物たちに紛れて私の携帯を見つけて手にした。
特に誰からの連絡もない。
椅子に置いたままだったアウターも手に持つ。

ジョングクがいない状態なのにここにい続けるのは何となく気が引ける。
かと言ってこの広い社屋の中ジョングクを見つけるのは無理という話だ。
でも－－－

と、暫し起動していないデスクトップの黒い画面を見つめたままで悩んで結局部屋を出る事にした。
もしかしたら屋上？
何となくそんな気がしたのだ。

だからアウターを着てエレベーターに乗る事を選んだ。
もし会えなければまた部屋に戻ってみればいいだけ。

屋上庭園へのドアを開けるといつの間にか雪は止んでいた。
薄っすらと積もった雪は残ってはいるものの、コンクリートの上ではあっという間に溶けてしまうくらいの積雪だ。

それでも息は白くて開けっ放しのアウターのチャックをきっちり上げた。

静かだ。
休日の会社はこの世界に誰も居なくなったみたいに静かで、私は意外とそれが好きかもしれない。
最近の情緒と関係している感情なのかもしれないけれど、今好きと思う事に変わりはない。

ピアスを開ける前にジョングクと待ち合わせした場所に滑らない様にゆっくり歩き進む。

「もしもし、え？あーやっぱそうなんだ」

何処からか話し声が聞こえて何故か植物の影に隠れる。
休日なのに誰かいたらしい。
まぁ、私も同じだけど。

悪い事をしてるみたいで動きに動けず電話の主が去るのを声を殺して待つ。

「いやでも、何も辞めさせる必要なかったんじゃないかって思うよ」

聞き覚えのあるワードに脈が大きく打つ。
カフェの時とは違ってここは静かだ。

「ジミニの彼女も相当だよな。ま、長く付き合ってて結婚間近なんて言われてたら、邪魔者を排除したい気持ちもわからなくはないけど」

聞き間違えるなんてない。
風の音さえ聞こえないんだから。