月に叢雲花に風 (ページ44)

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ドアの開く鈍い音とその声はほぼ同時だった。
私とジョングクがそのままその声の方に向くのもほぼ同時だった。
だから片手に何か雑誌の様な物を掲げてるジミンがそこにいると気付いた後、ほんの一瞬の間を置いてからジョングクの手から身を引くことになった。

やましい事は何もない。
いや別にジミンとも付き合ったりとか、ない。
私はそういう存在じゃない。
私が勝手に好きなだけ。

私の存在はジミンにとって－－－

「、Aがいると思わなかった」

ジミンの後ろで静かにドアが閉まった。
'びっくりしたー'と笑いながら言うジミンは既に雑誌を下ろした状態だった。

ゆるゆるのニットとスウェット姿のジミンの髪も暖房の風でふわふわと揺れた。
その風にのって途端にこの部屋の中にジミンの香水の匂いが立ち込め始める。

「ヌナにピアス開けてたんだよ」

'見てみて'と促したのはジョングクで手際よく片付けをしながら言うから私にもジミンにも目を向けていない。

近付いて来たジミンが椅子に座る私を見下ろしたから心臓がぎゅっと縮こまる感覚に襲われた。
ジミンの目の奥の感情が読めない。
いつもと同じ様に見えるしどこか冷たく見える。
私の気にし過ぎだろうか。

'ふぅん'と小さな笑みを浮かべてるジミンが私の耳を隠してる髪をゆっくりと避ける。
熱い耳が更に熱くなる。

でもジミンの手はあっさりすぐ離れて思わず'え'という顔をしてしまいそうになった。

「、ジョングガ」

それだけじゃなくそのままさっき入って来たばかりのドアに向かったジミンが私ではなくジョングクを呼んで。

「ちょっとAと話したい事があるから、貸してくれる？」

ドアノブに手を掛けた後でそう言った。

ジミンの言葉選びとか何故ここに来たのかとかそんな事は考える余裕がない。
だから私もおかしいのだ。
ジミンに何か言えばいいものを、何故かジョングクに目を向けてしまって。

「、行って来なよ、別に」

そりゃそうだ。
ジョングクは私の耳を貫通したニードルをゴミ箱に投げ入れながらそう言った。
プラスチックに金属がぶつかる無機質な音を聞いてからジミンと共に部屋を出た。