月に叢雲花に風 (ページ42)

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「あーーーー寒い寒い」

ジョングクに連れて来られた場所は本当にまだインターン期に口頭でだけ教えられた場所だ。
アウターのチャックを開けるなり暖房を入れたジョングクの言葉は全く聞こえず'ここか'ととろしていた。

「何が？」

アウターを椅子の背もたれに掛けたジョングクに突っ込まれても好奇心は止められない。

「いや、こういう作業室？的な所、初めて来たから、ここがそうかーと思って」

隅々まで見渡すけれど可もなく不可もなし。
質素で清潔感溢れる造りだ。
私にも私の言葉にもジョングクは大して興味がないのか'そう'とだけ答えて二つの椅子を向かい合わせに置いた。

エアコンから暖房の暖かい空気が出てきて私もやっとアウターのチャックを下ろした。

「앉아(アンジャ)(座って)」

片方の椅子には既にジョングクが座っていて、その前に置かれたもう一回をパンと軽く叩いて言った。
まるで子供に命令する様な口振りに、本当にジョングクは私によく慣れたと感心した。

そして、それを聞いてもちょっと可笑しいとさえ感じる私もジョングクに慣れたという事だ。

ジョングクと向き合う形で座ると左側にある机の上にバラバラとピアスを開けるのに必要であろうあれこれが目に入った。

「ねぇ…それがニードル？そんな太いやつ…？」

病院でしか見た事がない様な個包装された針に思わず黙っていられなくなった。
その一つを手慣れた様子で開封したジョングクはただ'うん'と淡々と頷く。

「太いから開けた後すぐピアス入れられるんだよ、あのね、これ見た目より痛くないから、こないだも言ったけど」

「でも注射とか点滴の針って痛いじゃん…あの細さより太いのに痛くないってことある？」

「注射とか点滴はほとんど一瞬じゃないじゃん、これは一瞬」

「一瞬じゃないじゃん！この長さ分貫通させ…」

ジョングクの手が私の口をべたんと乱暴に塞いだ。
タトゥーのある右手だ。
ジミンとは違う香りが近い。

そして'静かに'ともう片方の手を人差し指を自分の唇に当てて言うとジョングクの口のピアスがこの部屋の灯りを反射して光った。

「ヌナ、絶対似合うからピアス」

意外な一言にジョングクの言葉通り静かになるしかなかった。