月に叢雲花に風 (ページ5)

今日:192 hit、昨日:158 hit、合計:81,686 hit

5 ページ5

「ジミニとジョングギと話した？」

「はい、挨拶に来てくれてそれでなんか日本旅行した時の話しを少し聞いて、」

やっと戻って来た先輩とスタジオを出ながら一部始終を話すと'へぇー'と笑った。
廊下で時々すれ違う人達はみんな私と同じ社員証を首から掛けている。

社員証を掛けていないのはこの事務所に所属する芸能人だけだ。

エレベーターに乗って7階に移動した後、真っ直ぐ進んで一番最初に見える磨りガラスのドアを開けた所が私の所属する部署だ。

それぞれ自分のデスクに座りパソコンに向き合って仕事をこなしている。
当たり前の光景なのだが、今さっき落ち着かない状況に晒されていたからかとても落ち着く光景に見える。

「ジョングギは人見知りで特に女の人苦手なんだけど、そんな感じしなかった？」

先輩と隣同士。
椅子に腰を下ろして、あぁやっぱりそうなんだと自分のパソコンの電源を入れる。

「確かに…そんな感じでした。でもジミンさんはそれの逆で、最初からにこにこしっかり目見てくる感じで、あと距離が近いっていうか…」

「あーそうそう！ジミニはそんな感じ」

ハンドクリームを塗ってる先輩を見習って私もデスクの三番目の引き出しからハンドクリームを取る。
左手薬指のゴールドの華奢な指輪を取って丁寧にハンドクリームを塗る先輩は'でもね'とその両手を見ながら続けた。

「ジミニには気をつけてね？」

手の甲に出したハンドクリームを塗る前に手が止まる。
"気をつける"とは。

「こないだも一人、辞めちゃったのスタッフ。まぁ…ジミニが絶対的に悪いってわけじゃないとは思うけど、直接あんまり関わらないとはいえ、噂は回って来るからさ」

先輩の言葉は一見大まかな内容に思えて人の好奇心を煽るワードがふんだんに入っていた。
手の甲のハンドクリームをやっと塗りながらとりあえず'はい'と返す。

とはいえ私には関係のない事だ。