月に叢雲花に風 (ページ38)

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私の私情とは関係なく仕事は進む。

撮影の準備が進むにつれ私も慌ただしく動く事になって結局ジミンともジョングクとも最初の会話きり。
まるで全く面識のない赤の他人の様に時間は過ぎた。

その方が良い。
余計な事を考えなくて済むから。
良い事も悪い事も。

「今のうちに少し休憩して下さい」

一瞬手が空いた私に初対面のスタッフがそう声をかけてくれた。

「あ、ありがとうございます、でも他の方は…」

「みんな代わる代わる少しずつ休んでるし慣れてるので大丈夫です」

'遠慮なく'と笑ったそのスタッフは私より若そうに見える。
それでも口振りはもう何度も経験してる仕事人のそれで、私は言葉通り遠慮なく少し休ませてもらう事を選んだ。

寒いと思って来たが動いているとそんな事もなくて、むしろ暑いくらい。
カーディガンの袖を捲っていたがじんわり滲んだままの汗が引かないまま仕事をしていた。

隣のビルにカフェがあったのをここに来た時に見たのを思い出してアイスコーヒーを買いに出る。
アウターは着ずに。

タッチパネル式の機械で注文を済ませ注文番号が印字された紙を手に邪魔にならい場所で待つ。
店内は割と人が多くて少し時間がかかりそうだ。

デニムの後ろのポケットに入れた携帯を特に意味もなく持って大して興味もないSNSを開く。

「ねぇそういえばさ」

背後の席の会話が否応なく耳に流れ込んできた。

「少し前に辞めちゃったスタッフいるでしょ？ほらあの…」

丁度中学の同級生のフォトウェディングの写真をスクロールした時。

「ジミニの事好きになっちゃって」

スクロールしてた親指が止まる。
振り向きたかった衝動を抑える為だ。
音を切り取った技術を身につけたかのように背後だけの会話にだけ耳が集中した。

'あぁ'ともう一人が頷いたような声を出した時私の番号が呼ばれる。
でも私の耳に店員のその呼びかけは入って来なかった。

「辞めさせられた( ・・・・・・・)んでしょ本当は」

携帯の画面はいつの間にかブラックアウトしていた。