月に叢雲花に風 (ページ34)

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「え…私がですか？」

それに頷いたのは先輩、ではなくこの部署統括の上司だ。
信頼はしているがあまり話す機会もないくらいの関係性な上に仕事の話だ。
"嫌です""無理です"など言えるわけがない。

「これも勉強だから」

そう言ってバインダーを私の目の前に差し出した。
'はい'と言って受け取るしか私には選択肢がなかった。

勉強、仕事。
それは何歳になっても同じだ。
理解はしていたし別に嫌でもない。
むしろ自分が成長している訳だから良い事だ。

でも今指示のあった仕事を受けるのは気が乗らない。
当たり前だ。

「あ、撮影同行？私も昔行ったなぁ」

何処か遠くを見て思い出す様なポーズをとってそう言うのだから先輩も経験があるのだろう。

「そうなんですね、…でもこんなの時間とか結構調整しなきゃだし…私なんか行って大丈夫なんですかね…」

バインダーを捲る気になれずバッグに押し込む。
撮影は滞りなく進んで大丈夫だろうけれど私が大丈夫ではない可能はが高い。

少し前に買っておいたコーヒーを一口飲んだらまだ熱くて舌を少し火傷した。

「大丈夫大丈夫。むしろAくらいの時に行っておけば仕事の要領掴む良い機会になると思うよ」

先輩はそんな私に気付かず良い言葉をくれた。

経験者の言葉なのだからこれも間違いないのだろう。
上司もわざわざ足手纏いになりそうな人間だと思っていたら、こんな指示は出さないはずだ。

素直に喜ぶべき仕事なのだ。
本来なら。

デスクトップを見るとメールのアイコンに受信を知らせるマークが付いていた。

"メールの確認は早目に"
そう教えられていた事を守ってクリックしてみればさっき話したばかりの上司からで。

「、、明日…朝7時…」

文面を見てバインダーを見なかった意味がないと思った。

ジミン、ジョングク
午前10時〜撮影開始予定
時間厳守

"지민(ジミン)"の文字に眩暈がする。