月に叢雲花に風 (ページ33)

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ジョングクは私の嘘を見抜いているみたいだと思った。
いや、嘘だけじゃなく私の心情まで。

"一瞬で人生が変わる"

"何も変わらないわけじゃない"

そう言ったのはジョングクなのに頭の中に思い浮かぶのはジミンの事ばかり。
口に出して否定をしてみても一時的に気が紛れる事はあっても、それは誤魔化しにしか過ぎない。

軽やかに靡く髪とか妖艶に微笑む厚い唇とか、柑橘系の香水の香りとか、切れ長の目の奥の掴みきれない妖しさとか、そういう物全部、他の何よりちゃんと覚えている。

"ファンになった"

単純にそれなら良かった。
でもそれとこれが違う物だと分からない程子供じゃない。
でも誰の事も責められない。
ジミンもジョングクも先輩もこの会社も誰も悪くない。

「急ぎの仕事がないなら、早退した方がいいんじゃない？」

椅子に座った私に先輩が落ち着いたトーンで話しかけきた。
"気をつけて"先輩もそう言っていた。

「、いえ、もう少しで退勤時間だし、それまでは。でも、残業はしないで帰ります」

大丈夫だと思った。
気をつける様な事はないって本気で思っていた。

'無理しないで'と私の肩を撫でた先輩の手の温かささえ裏切ってる様に感じてまともな返事が出来なかった。
デスクトップの画面のアイコンをクリックして今日の分の仕上げに取りかかる。

明日と明後日は休み。
月曜と火曜は外出日でここに来る事はない。
ピアスの事だって結局口約束のようなもの。
水曜日からはまたここで仕事をして家に帰って－－－

ジミンの事が好きになってしまったなどと口が裂けても言えない。
それならせめて私の責任でこの気持ちを葬り去るしかない。
誰にも知られる前に。

慌ただしさを増す部署内はそれなりに人の声も多くなり電話の頻度も高くなっているのに、私にはその全ての音が遠くで鳴ってるような気がした。

自分の気持ちをぐちゃぐちゃと黒い絵の具で塗り潰す事に必死だったから。