月に叢雲花に風 (ページ31)

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ついさっき"何もなかった"と言ったくせに、頭の中はこれだから駄目なんだ。
迫ってきたジミンの表情が鮮明にフラッシュバックして困惑した。
まるでたった今がその瞬間かのように。

ジミンのそれとは違い何の意図も持たないジョングクの手はさっさと引っ込んで

「開けたい？」

心臓の異常な動きを悟られないようにコーヒーカップを急ぐ様に手にした私にそう投げかけた。

「ピアス。開けたいなら開けようか？痛くないよそんなに」

何か言うまでもなくジョングクはそう話を続けながら自分の耳にいくつか付いているシルバーの輪っかをなぞった。
少しずつ心臓が落ち着きを取り戻しているのが分かって思わず'うん'と答えた。

ジョングクの質問に頷いた訳ではなく、ただ訳もなく頷いてしまったのだ。

「ピアッサーって知ってるでしょ？あれでもいいんだけど、ニードルっていう注射針の太いやつみたいなので刺して開けた方がきれいに仕上がるんだよ」

「っあ、いや、ちょっと待って、私まだそんな決意固まってないんだけど…」

詳細な説明をされてしまってやんわりと断る理由を選んだ。
開けようとした事ならある、でもその度に怖くなって開けられずに来た結果の今だ。

ジョングクが小さく口を開けたままほんの一瞬だけ眉を顰める表情をして、それがどんな感情なのか分からずジョングクの次の言葉を待つ事しか出来なかった。

"じゃあやめよう"という私に便乗する言葉。

「何言ってんの」

それを待っていた私は直ぐに裏切られた。

「ほんの一瞬で終わるんだから決意なんか必要ない。むしろその一瞬で人生変わるかもしれないのに、迷ったら勿体ないじゃん」

ジョングクは自信に満ち溢れた表情だった。

ジョングクの言葉はいつも私の何かを揺さぶる。
感動か動揺か驚きか－－－
種類なんてはっきりしないけど、頭の中で何度もリフレインしたのは確かだ。

"一瞬で人生が変わる"

ピアスを開けたら私の中のジミンは消えるのかな。